天気悪い休日なのでゆっくり読んでください。木原さんのレポート、楽しいです!

ラリードイツの名物のひとつがPanzerplatteです。名物だけあってパルクフェルメではアナウンサーが「ラリーは今日の午後、パンツアープラッテに突入だー!」と観客に向かってアナウンスしているし、途中のTCやタイヤチェックでオフィシャルからも「エンジョイ パンツアープラッテ!」って声をかけられるなど、ドイツの名物感がひしひしと伝わってきます。

実際ここはいろいろなトラップが仕込まれているステージであり、過去多くの選手がジョーカーを引かされた場所だということはいろいろな記事で目にしてきました。私たちも去年ここでジョーカーを引く洗礼を受けましたので、ここを乗り切ることは今回の目標の一つであり、気合いを入れて臨みました。

Panzerplatteで有名なのは極悪路とヒンケルシュタインです。

軍の施設なのでヒンケルシュタインは戦車の脱輪防止に埋められていると聞いているのですが、ぱっと見「ゲームを作ったヒトはこれを見てインベーダーのキャラを作ったに違いない」と思えるくらい、あのインベーダーに似ています。そしてそれはラピュタに出てくる苔むしたロボット兵のように「いつから埋まってんだ?」というくたびれ具合で、道路の両側、或いは反対側に延々と埋まっています。

ヒンケルシュタインが無いところはそれに代わって、牛が丸まって寝ているくらいデカい石が置いてあります。これまた延々と。私達が去年ぶつかりそうになったのもこの牛です。その他子牛や犬くらいの石も沢山並んでいます。時々戦車の残骸なんかもあります。ヒンケルシュタインは見えている部分の2倍くらいの長さが地面に埋まっているデカいものなので、タイガー戦車なら押し倒せるのかもしれませんが乗用車だとそうはいかないのが明らかで、ぶつかることは絶対に避ける必要があります。

ちなみにぶどう畑のステージでは道路のイン側をショートカットすることが沢山ありますが、これはその時の思いつきでやっているわけではなく、ショートカットできるところ、出来ないところをレッキで事前に確認、ペースノートに記載してあります。本番ではそれに従って走っているものなのですが、Panzerplatteの場合は40キロのコースをレッキしたらショートカットできるところはたったの2か所しかありませんでした。それくらいコースサイドに延々とヒンケルシュタインとか牛、子牛がいるのです。「戦車ってどんだけ脱輪するものなのだろうか」と疑問が湧いてしまいます。

そしてPanzerplatteのもうひとつの名物が極悪路ですが、全てが極悪なわけではありません。ワタシが見た感じという適当な印象で分けるとコースは、以下の4つに分類できます。 

・山道風セクション

・広場風セクション

・丘陵地帯風セクション

・くそ道セクション

この中の「広場風」と「丘陵地帯風」は道が良く、極悪なのは残りのふたつ「山道風」と「くそ道」です。これらを組み合わせてステージが構成されています。今年のコースでいえば、スタート→丘陵地帯風→くそ道→極悪くそ道→丘陵→山道→丘陵→極悪くそ道‥‥きりがないのですがこんな感じです。ちなみにラリードイツの記事の写真によく出てくる、大観衆がいるところは広場風セクションです。

Panzerplatte Shortのルートブック。16図は『全長10.73kmSS7.39km地点が16図で、そこを右に行きなさい。前のコマ図からの距離は650m, ステージの残りは3.34km, 次のステージの入口TCまで10.98km。ここは今まで使っていない新しいステージですよ』という説明です。ルートブックに普通は石なんて描いてありませんが、ここのステージだけは交差点のヒンケルシュタインや牛石もこんな感じで描いてあります。どこの交差点もこんな感じなのでショートカットなんて出来ません。18図のINFORMATIONに描いてある矢印は、『ここから丘陵地帯風道路を外れてくそ道だぞ』という情報です。一番下のTURN QUICKLY!!は『次のコマ図が直ぐに出てくるからルートブックを早くめくらないとミスコースするぞ!』という情報です。レッキではこれを見ながらペースノートを書いていきます>

問題のくそ道と山道ですが、どちらの道もかなり特殊な荒れ方をしているのが問題です。ヒンケルシュタインと同じくらいコンクリートの舗装が古いのだと思いますが、ところどころ表面が剥がれるようにバリッと剥がれており、剥がれた破片が道じゅうに広がっているのです。剥がれはどんどん進行するので破片は常に補充されている、という感じです。

表面が剥がれた路面は、コンクリに混ぜられていたであろう玉石のアタマが出っ張っており、足つぼマッサージにはいい感じですが、ターマック用タイヤで走るにはタイヤの接地面が少なくなってしまうためにグリップが低いのです。部分的に補修されていたりしますが、それがまた剥がれ、の繰り返しのようで、道路全体の見た目は夜空に見上げる月のようにまだら模様になっています。そしてそれぞれの部分でグリップが変化するうえに石が乗っているので、どれだけ滑るかが非常にわかりにくいのです。 

またあるくそ道は遂には入口から出口まで全部路面が剥がれてしまい、ここで転んで両手をついてしまったら、膝に涙が出るほどでっかい擦り傷ができること必至なくらいササクレだってしまっている路面もあります。そしてその上に山ほど石が乗っかっており、そんなところはもう舗装だか何だかわからなくなってしまっています。

一方、戦車が通るためか道幅はある程度広いし、直線や緩いカーブの場合が多いのでごんごん揺すられながら高速で通過することになります。おかげで走り終えたところでドアを開けようとしたら、ボディが歪んでドアが開かなくなってしまいました。溶接ロールケージ付きのクルマで、どこもぶつけていないのにドアが開かなくなるなんて、初めての経験でした。

丘陵地帯風道と足つぼマッサージ風くそ道と地面に埋まるインベーダー

さて通常のステージでは、石が乗った路面は競技車が何台か通過するとタイヤ1本分くらい綺麗なラインが出来るものなのですが、Panzerplatteでは常時石の補充があるために各車石を避けて通るラインが違うこともあって、クリーンなラインが現れません。

そんな道が短い方で11キロ、長いもので41キロ、それを2周もする、おまけに2周目は夜! いろいろな試練に逢ってきたワタシではありますが、これはかなり上級に位置しております。更にオジエは「こんなに荒れたパンツアープラッテを見たことがない」って言ってるくらいでしたので、今年は極悪具合歴代1位という状況でした。

これで雨が降ってパンクなんてしても汚い言葉のひとつも吐かないコ・ドライバーは、本物のジェントルマンなのでしょう。精神修行にはもってこいです。レッキでもみんなトラブルに逢うようで、ゴールラインの後では車があちこちに停まり、タイヤ交換をしているのを良く見かけました。私も今度から笑顔でタイヤ交換しようと思います。

そんなステージでも、競技ですので走っているときは全開です。どんなセクションだろうとタイヤは路面を全開で空転し続けます。国沢さんは「パンク無し班長」的に石を避けるのが上手いのですが、Panzerplatteに関しては全ての石を避けるのは不可能です。しかしなるべく尖った石を避け、踏む場合でもタイヤのサイド部に当てず、トレッド面で踏もうとしていました。

それを30~40分続けてパンクなしだったのですから、国沢さんのテクニックも凄いですがヨコハマタイヤも大したもんだと思わずにいられません。特に走行後にタイヤを見ても、ダートを走ったあとのタイヤのようにボロボロになるわけでもなく、きっちりグルーブも残っているくらいなんですから。

このステージでワタシが出来ることは、くそ道では国沢さんのテクニックをひたすら信じて祈ることと、リスクの少ない丘陵地帯風セクションや広場風セクションではなるべく長く全開で踏めるようにすることです。

よくぞパンクしなかった! 素晴らしい!

ジャンクションやクレストを最大限踏んでいけるようにするのは通常のステージと同じですが、くそ道から広いスムースな道に出るときにスピードを落とさずに出ていけるかも大事で、それがその後のストレートスピードに大きく関わりますので、レッキの際には「くそ道→ジャンクション右 でいい道、そこから広い」と書いて加速の準備を出来るようにしておきます。

逆にいい道からくそ道に入る場合は、ぎりぎりまで全開に出来るよう、ジャンクションまでの残り距離を教えてあげることです。周りに家などない広大なところでは距離が測りにくいので心理的に余裕をもって踏めるようになります。このように攻め方の強弱に対応できるようにノートを準備しておくのです。

勿論事前にビデオでコースをアタマに叩き込んでおくのも当然です。記憶力が落ちた50過ぎのアタマでも呪文のように繰り返し見ていれば40kmのコースも覚えられるもんだと改めて発見しました。去年うまく攻められなかったPanzerplatteですが、こうしてコースの知識を増やし、走りの強弱を強めることで完走することが出来ました。

2回目の41キロのステージをゴールしたときは、昼の長い夏のドイツだというのに、もう真っ暗でした。Panzerplatteを合計100km以上も全開で走ってゴールしたあとの印象は、雪辱を果たしたというよりは「完走したけとやっつけられなかった」が正直な感想でした。

極悪くそ道のクレストを超える位置、クレストを超えて丘陵風道路にに出るスピードの乗せ方、超高速ジャンクションを高速ジャンクションくらいにしてしまった指示、去年の逆走だったために初めてのコースとなった不利はありますが、それを克服するのがラリーってもんで、正直、新たにやっつけるものが出来てしまったという感じでした。

国沢さんがよく言います。「ラリーって魔力みたいなもんがありますな」って。Panzerplatteを走るオジエをユーチューブで見ながら「おー、こうくるのかー」と日々感心なのでありました。次は一歩オジェに近づける、と思います! 一歩ね。

つづく。木原雅彦

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