ハイエース参戦記。レポートはコ・ドラの大西恵理さんです
ハイエースといえば物流業界や現場で活躍する「仕事車」の代表格。そのハイエースがスポーツカーと同じフィールドで走る、しかも走るステージは路面の整ったサーキットではなく、林道を走るラリーだという。こんな日がくるとは誰が想像しただろう。このニュースが目に飛び込んできて間もなく、なんとそのハイエースのコドライバーに声をかけていただいた。
ドライバーはあの有名な自動車評論家、国沢光宏氏である。こんな貴重な機会を逃すわけにはいかない、二つ返事でお受けした。その後、色々なことが頭を巡る。決定的に偏っている前後の重量バランスに始まり、コーナリング時の安定性はどうなのか? 重心が高くコーナリング中のGで横転しなのだろうか? クラッシュしたときの安全性はどうなのか?
しかし、そんなことを気にするよりも、ラリー車と化したハイエースがどんなポテンシャルなのかとても興味深く、好奇心の方が勝った。今回、ハイエースの車両製作者である喜多見氏と国沢氏の二台体制での参戦となる。そして参戦カテゴリーは国内ラリーの最高峰全日本ラリーである。クラスは2リッターNAのJN3クラス。86と同じクラスとなる。
さすがに生粋のスポーツカー86に勝てるはずはないものの、せめてCVTが走るJN6に食い込みたい。等々、色々想像してみるけれど、未知数な要素が多すぎる。笑当日までワクワクしながら、私はコドライバーとしての仕事を全うするため、今回の唐津戦の準備を進めていた。いよいよ金曜、今回のステージとなる唐津でハイエースとご対面。
サービスパークに2台並んだハイエースはただならぬオーラを発している。溶接ロールケージが組まれたハイエースは、わたしの予想を遥かに超える「ラリーカー」だった。「かっこいい!」。とても気に入った。一般のハイエースは私も何度か乗ったことがあるが、乗り降りしにくい。ドアをあけたサイドにはロールケージが入っているので、素早く乗り降りできるかを懸念していたのだが、意外や意外、ロールケージを持ってステップに足をかけ、車高の低い普通のラリーカーよりむしろ乗り降りがしやすい。
全日本ラリーの規定に合わせた車検も無事に通り、いよいよ迎えた土曜の本番。なんとこの車両、ギリギリの完成であったため、ドライバーの国沢氏も初めてステアリングを握る。もちろん前例がないのでなんのデータもない。まずは国沢/大西組がスタート、続いて喜多見/木原組。今回のラリーでは10本のSSがあり、5本のコースを2回づつ走行する。
レッキではハイエースならではの横転リスクのあるコーナーに「コケ」の注意書き(通常のラリーでは「コケ」=「苔」なのだが、今回は「コケ」=「コケる」を意味する。笑)をペースノートに記した。下りの多いSSでは前後バランス的にブレーキング時にも注意が必要となる。
まずはLeg1
いよいよハイエースの全日本ラリーデビューの瞬間が来た。コドライバーの私もスタートシグナルのカウントダウンに力が入る。序盤は車両の特性を探り探りマージンをとっての走行。なんといっても、何のデータもないままのぶっつけ本番である。なんとしてでも完走はさせたい。一本目のSSを終え、次のSS前にもう一台のハイエースに乗る喜多見氏と意見交換。2台で競い合えるというのも面白い。
徐々にペースを上げていく国沢氏、さすが海外ラリーの経験も多いだけあり、この未知数なハイエースの特性への適応力の早さには驚いた。そして、ハイエースのコーナリング性が予想以上に良い。足周りの接地感もハイエースとは思えない。ノーマル状態のハイエースからすると、まったく別物の車である。
乗り心地も凄く良い。ただやはりノーマルのミッションではきつく、ギアが合わずにタイムロスしている箇所がたくさんあり、苦戦を強いられた。上りストレートではパワー不足も。ハイエース2台の身内バトルは白熱し、初日は前半2本リードしていた喜多見氏を後半2本は国沢氏が僅差でひっくり返した。
そしてLeg2
二日目は国沢氏が絶好調。コドライバーのわたしもノートを読むのが楽しくなる。喜多見氏は車両トラブルにより惜しくも最終SSでリタイヤ。パワステが故障。一方、国沢氏と私が乗るハイエースは、なんとSS9ではJN6クラスの2台を上回るタイムを叩き出せた。これはシェイクダウンの初戦にしては上出来ではなかろうか。
今回の実戦投入で見えてきた部分や、まだまだ改良点もある。エンジンのパワー不足やギア比の変更で、もっと速くなるのは確実だ。ハイエースの限界はもっと上の方にあると感じた。SSに迎う途中のリエゾン区間では、ハイエースユーザーの方の姿も。これはとても嬉しかった。予想を超えるハイエースラリーカー、これからの進化の過程が楽しみです。
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