「ニュルスペックは最高なのか?」。相当なクルマ好きのための記事です

皆さん「ニュルブルックリンク仕様が最高!」みたいなイメージを持っていると思う。これ、日本だけじゃ無い。韓国のメーカーや最近は中国のメーカーも「ニュル最高!」的なアピールをしている。「ニュルで速い!」とか「ニュルで仕上げた」みたいなことを釣り文句にするワケです。翻って我が国は1980年代後半からNSXやR32GT-Rのテストでニュルを使ってきた。

すでに40年経つ。そろそろ韓国や中国と違うフェイズに入るべきだと思っていたら、トヨタ(のGR部門ですね)が興味深い知見を求めた。ニュル24時間耐久レースで走らせたGRヤリスのまんま日本のサーキット(オートポリス)を走らせ評価したのだった。比較対象は日本で開発を続けていたGRヤリス。エンジンやミッション(AT)、ウイング面積などほぼ同じだ。

日本人も、多くの人が「ニュル最高!」と思っているため、ニュル仕様は速いという認識かと。しかし私はニュル至上主義じゃない。最初にあれれ? と感じたのはR33GT-Rである。日本で開発し,最後にニュルで評価したR32はサーキットを含む日本の速度域で素晴らしく楽しいクルマだった。なのにR33ときたら、日本の速度域だと全く面白いクルマじゃなかったのである。

思い出せばR33の試乗会、オートポリスでした。曲がらなかった~

その後、ニュルを走って理解した。ニュルを安全&速く走ろうとすれば、180km/h以上のスタビリティが重要。したがって安定志向のクルマになってしまう。けれどクルマの楽しさって滑った時にコントロールすることから始まる。R32,2速コーナーだとアクセル踏んでテールアウトするし、3速のコーナーでも4輪ドリフト気味の姿勢で楽しめてしまう。これでニュル走ったら怖い!

200km/hを超えるコーナーだと踏めないですから。だからサーキットを含む日本の道だと日本でセットアップしたクルマの方が楽しいし、なんなら日本のサーキットだとニュル仕様より日本仕様の方が速いと思っていた次第。R33から始まったその疑問が今回やっと解決する! ということで開発担当者に話を聞いたら「私たちも意外だったのですがニュル仕様は案外速かったです」。

具体的に言うと、まず最初のフリープラクティスでニュル仕様のまんまタイムアタック。その後、オートポリス用に減衰力や車高を落としてセットアップして走らせたら、1秒も変わらなかったそうな。もっと意外だったのがクルマの特性で、低速コーナーでのアンダーステアが強くなる傾向も無かったという。低速コーナーで曲がるのは4WDのセットアップが上手に出来てるためか?

日本で開発したGRヤリスとの違いはどうか? やはり日本仕様の方が全ての場面で速かったようだ。これまた「さもありなん」。日本のサーキットと比べニュルは路面が悪く入力も比較にならないくらい大きい。そんな路面を全開で走らせようとすればサスペンションストロークが必要。けれどストローク増やすとアライメント変化が大きくなるため、限界は落ちる傾向。

さらに顕著なのがターマック仕様のラリー車。ニュル仕様より一段と大きい入力や悪い路面を走らなければならないため、一段とタフな仕様になっている。ただ日本のサーキットだとタイムという点で厳しい。ここでの学びは「ニュル最高じゃないけれど知見は間違いなく役立つ!」。日本仕様の知見しか無いまんまニュルで全開アタックしたら、間違いなく飛び出すし、踏めない。

ニュルの厳しい条件に耐えるクルマ作りを基本とし、そいつをベースにして「日本のサーキット用」や「ターマックラリー用」みたいな味付けすればいいんだと思う。日本の一般道を楽しく安全に走ろうとすれば、ニュル仕様とターマックラリー仕様の中間くらいがベストかもしれません--といった話がニュルを初めて走って40年して出来るようなった。文化の育成には時間が掛かります。

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2 Responses to “「ニュルスペックは最高なのか?」。相当なクルマ好きのための記事です”

  1. アミーゴ5号リリボーン より:

    日本のサーキットでは、ニュル仕様は遅いし楽しくない。。。

    R33GT-Rは曲がらない! とボロクソ言われていましたが、真相はニュルにありましたか!!

    「道がクルマをつくる。」とはモリゾウさんの言葉ですが、ようやく腹落ちしました!!!

  2. アミーゴ5号リリボーン より:

    追記です。

    自分はサーキット走行等は全く無縁ですが、ニュルで鍛えられたクルマは、やはり素晴らしいと思っています。

    以前初期型のトヨタC−HRをレンタカーで借りて、箱根をドライブしたことがあるのですが、高速ではビタッと安定するし、芦ノ湖スカイラインではボディ剛性が高くてハンドリングが楽しい上に、丸一日走りっぱなしだったのに疲労が残らなかったのですね。

    まるでドイツ車をドライブするような感覚だったので後で調べたら、開発責任者がドイツの公道やニュルで鍛えることに、大いにこだわったとのこと。

    やはりクルマは、開発責任者のポリシーと鍛え方が大切だと、実感した記憶があります。

    国沢さんが言われるように、クルマつくりにおいては、ニュルで鍛え、用途別にチューニングするのがベストだと感じています。

    それから開発現場の声を、しっかりマーケティングに反映することも大切ですよね。R33GT-Rだって、もっと特性を生かしたプロデュースもできたと思います。

    そういえば以前、テストドライバーの加藤さんが、「我々の仕事は、与えられた条件で与えられた目標をいかに達成するかだ」という旨を話しておられました。

    今のトヨタとは、大違い。
    何しろトヨタのマスタードライバーは豊田章男さんで、テストドライバーの立場から性能や設計変更を要求するそうですから。。。

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