トヨタに限らず日本の自動車産業は日本に留まるメリット薄い。出て行くと考えた方がいい

案外と理解されていないのが「クルマをどこで作るか?」である。日本の自動車産業黎明期の頃は、日本で生産して世界各国に輸出した。ドル=360円。英国ポンド=800円という時代は、日本で作るのが最も安かった。そんな流れで自動車の生産量を順調に増やしていく。1980年になると1000万台生産し、半分以上を輸出していたほど。1980年の為替レートは226円/ドルである。美味しい。

私が初めてアメリカに行った1981年は1ドル=220円

しかし調子に乗りすぎた。アメリカで日本車バッシングが始まり、日本からの輸出に制限を掛けてきた。いや、輸入規制はWTOに引っかかるため、日本側に対し「自主規制しろ!」と圧力掛ける。ビビった日本は168万台という極めて少ない台数を提案。アメリカが「よしよし」。ただ「アメリカやカナダ、メキシコに工場進出し、そこで生産した分はカウントしない」という条件である。

当然ながら工場の海外進出が加速する。欧州はアメリカと違うアプローチで工場を誘致させる政治的な駆け引きを行い、トヨタ、日産、ホンダが進出。東南アジアやオーストラリア、中国も罰則的な課税をするなど事実上の禁輸措置を取る。現地に工場を作らないとクルマを売ることが難しくなった。クルマの場合、工場立地はコストじゃなく政治的な条件で決まるということです。

写真/ホンダ

今の流れは「販売する国で作る」となっている。為替に左右されないという決定的なメリットがあるからだ。クルマの生産コストを5%下げようとしたら抜本的に見直さなくちゃならない。10%下げようとすれば性能や装備ダウンまでしなくちゃダメ。20%下げることなど不可能である。なのに為替は激しく変わる。3年前の9月は1ドル110円。7月は160円になった。45%の変動だ。

お話になりませんがな。とはいえ110円から160円は円安。生産コストを45%引き下げたのと同じ効果を持つ。だからこそ2023年度の決算は空前の数字になった。もはや「濡れ手に粟」や「タナボタ」を通り越し、大笑いしすぎて腰が抜けるレベル。されど円高に触れたらイッキに厳しくなっていく。おそらく100円くらいが現在のボーダーラインになってると考えます。それ以上になると厳しい。

ホンダは売る国で作ることを基本としている

ということでクルマの生産は為替変動の心配しなくてよい「売る国で作る」です。輸出比率の多いスバルやマツダ、日産は為替の変動を考えたら不安だらけ。特に日産は為替予想を1ドル155円にしているため、このままじゃ考えたくないような赤字になるだろう。スバルとマツダもアメリカ一本足打法を続けるのなら、輸出している分を1日でも早くアメリカの工場で作るようにした方がいい。

自動車産業が自らのサバイバルを優先するのであれば、日本の雇用にこだわって自滅するより軸足を海外に移すべきかと。昨日書いた通り日本で販売するノア/ヴォクシーの増産分は常識的に考えるのなら日本の工場だ。なのに台湾を選ぶ可能性大だという。これ、よっぽどのことだと考えていい。10年の自動車産業は開発を日本で行い、生産は海外に出て行くと予想しておく。悪夢の空洞化です。

参考までに書いておくと、94円までいった1995年前後の円高は海外が厳しくても日本市場で利益を上げられた。ホンダはクリエイティブムーバーで大儲け、スバルもレガシィを売りまくった。今やトヨタを除くメーカーの日本に於ける収益状況ときたら事実上の赤字。中国だって足を引っ張る。円高になり海外の利益がなくなればなかなか厳しい状況になる。早めの準備を!

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