8月7日からスタートするトランプ関税。各メーカーの対応を様々な観点から評価してみました

文頭の第一小節はこちらから読めます

まずは自動車関連の関税をおさらい

まず新しい日米の関税を含む自動車関連で決まったことの概要を。驚いたことに発表されたのは以下の2点のみ。1.日本がアメリカにクルマを輸出する場合、部品を含め関税率を15%とする。2.日本側が設けている自動車の認証に対する非関税障壁を無くす、というもの。15%という数字を除き具体的な内容なし。書類もなし。さらに施行される日時の記載なしという異例な協定である。15%も「とりあえず」だという。

さらに彫り込むと2.も日米の発表内容が異なっている。アメリカ側は「史上初めてアメリカの基準が日本に適用される」としている。アメリカの“FMVSS”という認証規格を日本でも認めるということ。一方、日本側は「欧州で販売されているアメリカ車でISO規格に対応しているモデルは日本も認める」と言っている。これ、全くレベルが違う。トランプさん的には「アメリカ車をそのまんま日本で売る」と考えていることだろう。

日本側はあくまでISO規格をクリアしていなければダメ、と譲っていない。事実上「左側通行用のヘッドライトを持つイギリス仕様のアメリカ車だけ認可」程度。イギリスで販売してる正規輸入のアメリカ車ってあるのか調べると、ほとんど存在しない。これを知ったトランプさんは「関税率15%は撤回! 25%に戻す」と言いかねない。という状況の中で日本勢はどう対応しているのか下にまとめてみました。

以下トランプ関税に対する国沢視点による1〜5段階評価の通信簿

トヨタ自動車は基本的には静観という状況。なぜか? トヨタは1980年代以後、貿易摩擦や為替変動リスクを回避するため、米国での工場建設と生産能力の増強に積極的に投資してきたからだ。すでに北米での生産比率は高く、トランプ政権下の「米国製を増やす」という圧力に対しても、アラバマ州やノースカロライナ州などでの工場建設や既存工場への大規模投資を継続し、米国での雇用創出に貢献する姿勢を明確にしている。

今回の15%関税発表を受けても、米国生産車の販売価格への影響は限定的だし、日本からの輸出分についても現在の為替レートなら十分利益を確保できる。具体的に書くと、2021年以前に開発&輸出を開始したモデルの場合、当時の為替レートである1ドル=110円でも利益は出せる生産原価&価格設定をしていた。そいつに15%を上乗せされたって126円。現在の為替レートである150円前後なら十分に利益を確保できる。

したがって慌てる必要なし。ただ関税率が25%になったり長期化するようなら対策をしていかなければならない。関税率が上がると高級車や最新技術を搭載したモデルの利益率は下がっていく。これらのモデルの米国での生産移管を加速させるか、関税分を価格に転嫁するか、日本での生産効率をさらに高めてコストを吸収するかの選択を迫られることになる。とはいえ高い現地生産比率を確保しているため、対応は難しくない。

また、日本で生産しているモデルをアメリカで生産することになれば、日本側の生産ラインに余裕が出てくる。トヨタの場合、日本市場では完全な供給不足。3分の2以上の車種が長納期で受注停止中なのだった。アメリカ移管分を日本仕様の生産に回せば納期短縮になる。

以上、トヨタの通信簿は“5”ということになる。もちろん関税の影響で利益率は下がるかもしれないが、全ての自動車メーカーの中で最も優秀なことに変わりない。

日産には厳しい評価が

日産自動車は北米市場での生産現地化を積極的に進めてきたメーカーの一つである。テネシー州スマーナ工場やミシシッピ州カントン工場などを拠点に、長年にわたり主力車種の生産を行ってきた。けれど直近で大幅に販売台数を落とすなど苦戦中。アメリカの売れ行き低迷が日産の赤字原因になっているほど。しかも関税率が約15%となるメキシコ工場からの輸入も多い。

日産は経営再建中のため、大規模な新規投資もできない。魅力的な車種をラインナップできていないため、大幅な値引きをして販売している。関税分を販売価格に上乗せしたら、さらに売れなくなるだろう。販売が好調なトヨタと明確な違いを見せる。結果、赤字額がさらに大きくなると思う。そんなことからメキシコの工場を休止したり、日本から輸出する台数を減らすなど動き始めているが、そもそも売れる車種がない。関税率が25%になったら相当厳しい。

北米市場での収益性を確保するため、日本からの輸出依存度を引き下げる必要に迫られる。既存の米国工場での生産車種ラインナップの見直しや、生産能力の効率的な活用くらいしか打つ手なし。15%という関税率でも厳しいのに、25%となったらさらに打つ手なし。2万人規模の大幅リストラくらいじゃ販売低下の速度に追いつけない。年内にも抜本的な体制変化が起きることだろう。

ということから通信簿は“1”。

後編「マツダの協力企業は20万台規模の仕事を失う可能性も…。新税関措置で各自動車メーカーはどうなる?」はこちらから。

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