NHKの視点論点の『自動運転の最新事情』です
視点論点用に書いた原稿です。現在の自動運転に状況についてまとめてみました。長いですが、読んで頂ければ大雑破な現状と課題を理解出来ると考えます。
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最近「自動運転」を巡るニュースが多くなってきました。日本政府も「2020年には高速道路の自動運転を実現し、2025年ごろには人間が運転に関与しない完全な自動運転車を販売する」という目標を掲げています。確かに目的地を設定するだけで走ってくれるクルマなら、免許のない子供や、お年寄りなどの便利な移動手段になるでしょう。
海外を見てもドイツのメルセデス・ベンツやアメリカのフォード、スウェーデンのボルボなど多くの自動車メーカーが自動運転の開発競争をしており、『グーグル』はすでに完全自動運転の車両を公道で多数走らせ実証試験しています。ここにきて自動運転技術を確立しないと次世代自動車で勝負出来ないと考えている人や企業が増えてきました。
トヨタは高速道路で熟成
日本の自動車メーカーも自動運転技術に取り組んでいます。先日、トヨタと日産の試験車両を取材しました。トヨタは高速道路の自動運転を想定した技術で、高速道路への流入やジャンクションでの分岐、車線変更、インターチェンジからの退出まで全て自動走行するという内容です。
日産は一般道から
日産は一般道での自動運転を狙った技術で、プログラム通りに左折を繰り返し、自動運転で出発地点に戻ってくるという内容でした。現時点では95%程度の自動運転率ということですけれど、そう遠くない将来、限られたコースであれば一度もハンドル操作をすることなく走ることも可能になるでしょう。
10km/hまでは自動で運転可能
こういった技術は市販車にも採用され始めていて、渋滞時に限り10km/hまではブレーキとアクセル、ハンドルを自動で操作してくれる機能を持つクルマを日本やドイツ、スウェーデンの自動車メーカーが販売しています。
もちろん技術的な課題も山積しています。
自動運転には人間で言う『目』の役割を果たす各種センサーと『頭脳』に相当するコンピュターが必要です。人間の能力は素晴らしく、前方で起きていることをほとんど100%感知出来る上、頭脳も0,2秒という速さで答えを出すそうです。しかも判断には経験という修正も加わります。
屋根にカメラと走査型ライダーが付く
残念ながら今の技術ではカメラや電波を使うレーダーを組み合わせても、人間の目の総合的な性能に届きません。判断も難しいです。だからこそ自動車よりはるかに高度な技術と、高価で高い性能を持つセンサーを搭載している航空機や、自動車よりはるかに動きの遅い船舶の完全自動運転も出来ないでいます。
今年の5月、アメリカで自動運転中のクルマが事故を起こし、ドライバーが亡くなりました。事故を起こしたクルマは同じ車線であればアクセルとブレーキ、そしてハンドルを自動で操作してくれる装置もついています。私も事故を起こしたクルマと同じタイプに試乗したことがあります。完全な自動運転車ではないですけれど、事実上ドライバーが何もしないで走ってくれます。
テスラは新しい技術に積極的
この事故を受け、自動運転に対し歓迎ムードだったアメリカ当局も突如厳しくなりました。9月20日に15項目からなる自動運転の指針を発表しましたが、内容を見ると全て厳しいものでした。例えば電波などを乗っ取られた時の対策なども盛り込まれています。ハッキングを行う側は常に新しいアプローチをしてくるため、決定的な対応は難しいと思われます。
また、レーダーなど地上の支援を受けながら空中を移動する飛行機や、交通量の少ない海を移動する船舶と異なり、クルマを巡る環境は雑多です。しかも相手側が交通ルールを守っていない場合も考えなければなりません。一時停止無視や信号無視車両への対応や、子供や高齢者の飛び出しなどです。
フネすら完全自動運転はしていない
一般的な交通は「信頼の原則」という根拠に基づいて成立しています。青信号で速度を落とさずに走れるのは、他の車両が赤信号を守っているという信頼で成り立っているし、交差する道を走ってきた車両は一時停止すると皆さん信じて走っています。相手側がこれらの「約束」を守らなかったらどうか? 当然のことながら避けられません。
現在は飛び出してきた歩行者と接触した場合、車載カメラの証拠など無い限り「お互いが悪い」という妙な大岡裁きになります。しかしカメラなどの証拠が残る自動運転では子供やお年寄りであっても、当然のように飛び出してきた方が悪いということになるでしょう。逆に飛び出し事故を防止するような走り方をするとなれば、街中ではすぐに停車出来る時速10km/hくらいで走るしかありません。
航空機は99%自動で飛べるが‥‥
また、歩行者を避けたらガケから転落してクルマに乗っている人の生命に問題が出るようなケースは、歩行者を守るのか自分の命を守るのか、どうすべきでしょう。
また「なぜ完全自動運転が必要なのか?」という点についても大きく意見が分かれています。利便性をアピールしたいのであれば、今でも電話一本でタクシーを呼べる上、お年寄りなら乗り降りの介助もしてくれることでしょう。タクシーを自動運転車に切り替えるという場合も、自動運転車の運用コストは高いと考えます。
では自動運転の開発競争はムダなことでしょうか?それは違うと思います。育てた技術は、事故防止のためにも役立つからです。日本の自動車メーカーが開発した自動ブレーキは、装着していない車両と比べ、追突事故を80%以上減らしたというデータを残しています。
すでにアイサイト3は赤信号を読んでいる
人間は危機に対する高い対応能力を持っているのと同時に、ミスもします。機械は正常に稼働していればミスをしません。また、高齢社会を迎え、運転者が急な病気で運転出来なくなってしまうケースも増えることでしょう。健康な人であっても居眠りは避けられず、毎日のように事故は起きています。
こんな時に自動運転装置がバックアップしてくれれば、様々な対応が出来ます。例えば、運転者の姿勢や視線の変化を常時チェックし、正常でなくなった時点で減速。路肩に停車してハザードを出すことは、今の自動運転技術で簡単に実現出来ます。
すでに優れたカメラを搭載しているメーカーもあるので、すぐにでも赤信号や一時停止を無視した時にブレーキを掛けるようにすることが出来るでしょう。「2020年までに自社の車両に搭乗している時の死亡や重傷事故をゼロにする」というプロジェクトをすすめている世界で最も安全に積極的な北欧のメーカーも、自動運転技術は絶対に必要だと言います。
一時停止表示や制限速度表示も読める
私は、自動運転の近未来像としては、ドライバーが追突事故などのミスをしやすい渋滞時の運転機能と、病気などの時の安全確保の機能を目標にしたらいいと考えています。技術を磨くことにより、やがて完全な自動運転も視野に入ってくるかもしれません。
さて、政府が目標としている2020年の完全自動運転は可能でしょうか? 私は実現するかもしれないと思っています。少なくとも東京オリンピックのときに「羽田空港や成田空港からメディアやVIPなどをホテルまで送迎したり、限られた短いルートを走るという前提で競技場への移動に使う」という程度なら難しくないでしょう。
さらにルート上の危険な交差点を無くしたり、ITS(地上に設置したカメラで交差点に入ってくる信号無視車などの情報を送る)を使うことにより安全も確保出来ます。専用の走行レーンを作ることができれば、安全性はさらに向上します。いずれにしろ自動運転にむけては、焦らず安全性を十分確保しながら進むことが重要ではないでしょうか。
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