マーチ・ボレロA30試乗&紹介レポート(永田)

当サイトをお読みになってくださるクルマ通の皆さんであれば、日産系のオーテックジャパンの名前はご存知かと思います。

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オーテックジャパンは量産車を生産する日産では作りにくい比較的少量生産のカスタムカー、福祉車両、商用特装車などを担当する企業で、創業以来スポーツ性を高めたスカイラインやシルビアなどのオーテックバージョンや先代マーチの12SR、マーチボレロや日産各車のライダーなどのドレスアップカーといった数々のコアなファンが多いモデルを手掛け、最近ではマーチ、ノート、GT-RのNISMOモデルの開発も担当しています。

またここ10年くらい毎年「里帰りミーティング」という多くのオーテック車オーナーが集まるファンミーティングも行っており、ユーザーとの距離が近い企業であることも大きな特徴です。

そのオーテックジャパンが1986年の創業から今年で30周年を迎え、その記念車として30台限定で4月にリリースされたのが「マーチボレロA30」です。

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オーテックジャパンでは社内活動としてラシーンをベースにノスタルジックなセダンボディを纏い、FR化したパワートレーンにチューニングされたSR20DEを搭載し、S15シルビアのオーテックバージョンにも通じる10周年記念車のA10や、3.5ℓV6を搭載するV36スカイラインセダンに3.7ℓV6のVVELヘッドを載せ、6速MT化などを施した25周年記念車のA25を制作してきてきましたが、残念ながら市販化は叶いませんでした。

しかし、A10やA25を里帰りミーティングに代表されるイベントで公開するほどオーテックファンからは「市販化してほしい」、「自分たちだけ楽しんでズルい」といった声が止まらず、30周年記念車は市販化されることとなりました。

市販化にあたっては「30周年記念車は何をベースにするか」という大議論が行われ、社内、SNSを通じたファンからも様々な意見があったそうですが、ベース車には「オーテックはマーチR(初代マーチスーパーターボの競技ベース車に始まり現行マーチまで様々なモデルを手掛けており、マーチに関するノウハウは非常に多い上にマーチとは何かと縁深い」といった理由でマーチに決定。

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そしてマーチボレロA30には「見てニッコリ、走ってニヤリの笑顔製造機」という、サーキットのラップタイムに代表される限られた場面での速さや楽しさではなく、いつでも楽しめるクルマというコンセプトが掲げられ、以下のようなチューニングメニューが施されています。

・オーバーフェンダー化による90㎜のワイドトレッド化(全幅は1810㎜)
・レカロシートの装着
・ノートNISMOに搭載される1.6ℓ直4エンジンを搭載し、レッドゾーンを7000回転超えまで高回転化。高回転化に伴いポート研磨、専用カム、バルブスプリングやコンロッドなどの強化が行われ、エンジンはオーテックの匠の手によりバランス取りなども含まれる手組みで制作される(150馬力&16.3kgm)。
・ボディ剛性向上のため補強パーツの追加、フラットな4WD用のリアフロアをドッキング
・スタビライザー径のアップを含む専用サスペンション
・16インチタイヤの装着(銘柄はミシュランパイロットスポーツ3)
・リアブレーキのディスク化、フロントローター径の拡大(マスターシリンダーの大型化も含む)

など多岐に渡る上、北海道での雪道のテストやVDCのリセッティングも行われており、このあたりは「さすがメーカーの仕事」と感じます。

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フェンダーは職人の手作り

30台限定で抽選を経てすでに完売となったマーチボレロA30は、価格が税込み356万4000円することも話題になりました。「マーチが350万円?」という意見もよく分かりますが、考えてみると30台完売してもオーテックに入ってくるお金は1億円ちょっとですから、オーテックはもちろん手の掛かる鍛造ホイールを供給するエンケイやマフラーを供給するフジツボといったサプライヤーを含め、金銭という意味でいい思いをする人はおそらく誰もいないでしょう。

それだけにファンの夢を自動車メーカーのクオリティで実現している点を考えると、価値を認める人には決して高くないと言えるのではないでしょうか。乗ってみると「よくぞあのマーチをコンセプト通りに、ここまで仕上げてくれた!」というのが総合的な印象です。

まずエンジンは低速から非常に扱いやすい上、2000回転あたりでは吸気音を、中回転域ではトルク感といかにも小排気量のNAエンジンらしい機械的なエンジンを響かせながら、7000回転ちょっと超えのレッドゾーンまでシッカリ回るという性格で、それほど速くもなく、昔のホンダのVTECのようにレッドゾーンまで弾けるように回るという訳ではありませんが、全回転域での豊かな表情やトルク感を伴いながら軽く回ってくれるところは「さすが手組!」と思わせてくれます。

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コアサポートには「ハンドビルド」のプレートが

シフトフィールはマーチNISMOやノートNISMOで感じたギコギコとした感じが少し残っていますが、及第点と言えるレベルまで改善されており、もう少しシフトレバーが短くなれば一層このクルマらしい積極的なギアチェンジを楽しめると思います。クラッチも重さは適度かつ短めのストロークでとても扱いやすいので、久々のMTという人でもクラッチ操作が苦になることはないでしょう。

ハンドリングは特別シャープなどの強い特徴は感じませんが、全体的にいい意味で落ち着いており運転しやすく、ワインディングベストといった仕上がりで、日本の公道を常識的なペースで走っていても運転、クルマとの対話を楽しめます。

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ほどほどのレカロがコンセプトにピッタリ

乗り心地もダンパーがよく動いているようで、若干の硬さながらその中にしなやかさも感じられ、不快な硬さはなく、ギャップの吸収もマーチがコンパクトカーの中でも小さい方のサイズに属することを考えれば良好です。個人的には硬すぎにも感じるマーチNISMOやノートNISMOもこういったタイプ、性格でスポーティなセッティングにしたダンパーになればと思うほどです。

このあたりがインプレッション編の初めに書いた「コンセプト通り」というところで、この仕上がりにはスポーツタイヤの中でも各性能のバランスに優れたミシュランパイロットスポーツ3というタイヤや、ワインディングレベルでの十分なホールド性と乗り降りのしやすさを両立させたレカロのLX-Fというシートといったパーツ選定のセンスの良さも大きく貢献しているのではないでしょうか。

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走っている姿は意外に迫力アリ

なお燃費はオーテックジャパンのある茅ヶ崎から箱根方面にワインディングロードを中心に170㎞走り13㎞/ℓと、不必要なギアチェンジを行いながら楽しんだ代償と考えれば納得できるガソリン代といえると思います。

まとめるとコンセプトに忠実な完成度を備えたスペシャルモデルであるこのクルマを買えた30人のオーナーの満足度は非常に高いと思います。個人的にはもう少しインテリアの雰囲気もスペシャルなものになればと感じますが、マーチボレロA30の登場を期にオーテックやニスモからA30のようなスペシャルモデルや、買いやすいスポーツモデルが出ることを期待したいところです。

その前にベース車両を作る日産に86&BRZのような現実的な価格帯のスポーツカー、日産車で言えばシルビアのようなクルマが1台くらい欲しいという、根本的な要望が浮かんでしまうことが今の日産の問題かもしれませんが‥‥。

原稿/写真 永田恵一        

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