状況を認識し前に進むのがホンダの美学だと私は思っている

ホンダ社員の半分以上は本田宗一郎さんのファンである。同時に今でも本田宗一郎さんの雰囲気を残す社風を愛しているのだった。考えてみれば私ですら本田宗一郎物語を読む度、誰が書いたものであっても泣けてしまう。作者じゃなく”題材”の素晴らしさだと思う。

文筆業から見る本田宗一郎さん物語の泣かせどころは当然の如く立身出世ではない。一代にして本田技研という世界規模の企業を興したバックボーンに藤沢さんという心強い相棒が存在したことと、最後は自分の考えが通用しなくなっていくところにある。

空冷エンジンを強要したままなら、只のガンコな経営者で終了だ。されど久米さんという「技術の目利き」に優れた部下が徹底的に逆らい、宗一郎さんは激しく抵抗したものの最終的に負けを認め経営者としての限界を感じて引退するあたりに「人間のカッコ良さ」を感じるのだった。

もう一つの魅力は「技術で負けたくない!」という強い意志と、「エンジンのチカラはみんなを幸せにする」という普遍的な夢を持ち続けたこと。晩年、私の心に突き刺さったのは少し厳しい状況にあった時のアイルトン・セナに対する「あんたのために良いエンジンを作るよ」。

これを通訳から聞いたセナはマジ泣きをしたそうだ(その場に居た人から聞いた)。そのくらい宗一郎さんはカッコよかったし魅力的だった。ちなみに宗一郎さんを尊敬していた川本さんも大嫌いだったミニバンやSUVを、熟考の末「オレはワカラン!」と言って認めた。

という隠れホンダファンの私が嘆くのは、ここにきて宗一郎さんのイメージを全く感じなくなったからである。宗一郎さんは「ブランドを作る!」などと言わなかった。むしろ多くの人にホンダに乗って欲しいと言ってたそうな。自動ブレーキなど技術で負けてるのだってアカンです。

「シビックはホンダの原点」というのも広告代理店の作文じゃなかろうか。ホンダの歴史を知ってるのか? と思う。ホンダの原点は、当時のライバルより圧倒的に高性能で、圧倒的に広く、圧倒的に安かったN360である。シビックが原点なの、アメリカ市場だけですから。

加えて藤沢さんのような存在や、宗一郎さんに空冷エンジンのダメ出しをしたり、川本さんにミニバン作りを迫った強い部下もいない。「シビックを売るぞ」と言われれば「解りました!」というイエスマンばかり。こうやって書いている私は勝てない戦いを挑むドンキホーテです。

同業者に「成功しなかったら丸刈りしましょう!」と声を掛けるも賛同者は一人でした。そればかりでなく「丸刈りが見たいからシビック応援する」みたいな意見さえある。ちなみに現在販売してるアコードはシビックに勝るとも劣らないほど素晴らしく良いクルマです。

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