今や自動車メーカーまで「凄い!」と驚くヒョンデアイオニック5 Nの凄さをジックリ説明してみました

この2台のクルマを並べ、私が超短いタイトルを付けるとすれば「終わりと始まり」にしたい。説明するまでもなくGRヤリスというクルマ、世界規模で考えても「最後の武闘派」と言って良い。いわゆる競技車両として使うためのホモロゲモデルです。古今東西(といっても東は日本だけ)、ホモロゲモデルは自動車好きにとって憧れの存在だ。

有名なのはオークションで最も高い値が付くフェラーリ250GTO(グラン・ツーリスモ・オモロゲート)。競技で勝つには普通のクルマと違うスペックを持たせたいのだけれど、ワンオフ・モデルでOKなら尖りすぎてしまう。一定の台数を市販するというレギュレーションを作っておけば、誰でも買えるし過激にならないというのが理由だ。

エンジン誌の無料メールマガジン会員はコチラから

GRヤリスはWRCのホモロゲを取るために開発されたモデルで『ラリー2』(人気沸騰で数年待ち)というカテゴリーの競技車両ベースになっている。標準のヤリスと比べスポット溶接の数を800打点増やし、接着構造も採用。剛性を確保するなどボディ骨格からして違う。生産も工程毎にレーザー測定するほど精度管理をしている。

現在販売しているモデルはベアリング・ターボの採用などで初期型の272馬力から304馬力に10%もパワーアップされたエンジンや、シフトフィールの向上をさせたミッション、ボディ剛性のアップ、冷却性能の向上など3年間の競技参戦で出てきた多くの課題に対し可能な限りの対策をしている。腕自慢のドライバーでも納得いく仕上がりになった。

世界唯一&最後の「エンジンだけで走るホモロゲモデル」ということは海外のクルマ好きの皆さんも知っており、今や絶大なる人気車になっている。販売されていないアメリカから「早く売って欲しい」というリクエストが毎月のように届くらしい。文頭に書いた「最後」は、文字通りエンジンで始まった自動車文化のファイナルを意味する。

アイオニック5Nは武闘派電気自動車の最初である。こう書くと「テスラやタイカンだって高性能電気自動車でしょう」と思うだろうけれど、アイオニック5Nと比べたらGTカーレベルです。いや、スポーツグレードくらいか? 使い古された表現なのだけれど正真正銘の「羊の皮を被った狼」だったりする。

相当なクルマ好きであっても、乗る前は過小評価している人であっても、アイオニック5Nのコクピットに座り、ハンドルの右側にある『N』ボタンを押した瞬間から「なんだこりゃ!」が始まり、やがて夢中になっていくと思う。かくいう私はクルマ好きのステレオタイプであり、試乗するまで過小評価してました。 もう凝りに凝っている! 

興味深いことに開発に関わったエンジニアと話をしていると、アタマの中は『イニシャルD』だった! 「秋名で溝落とし走行するのが見果てぬ夢です」という人までいる(笑)。日本人のクルマ好きはベテラン世代だとサーキットの狼、若手だとイニシャルDによってスイッチを入れられる。それがヒョンデの場合は、イニシャルDとワイルド・スピードなのだった。

ちなみにアイオニック5Nは赤いNOSボタン(NGBと表示されている)まで付けちゃった。押すと10秒間だけ600馬力が650馬力になるのだけれど、残念ながらドカンとは加速しない。ただ気分を味わえます。一時が万事で、乗っていると「ソウキタカ!」の連続。 まずエンジン音がする。ニュートラルでブリッピングするとキチンとタコメーターが跳ね上がり、回転が落ちてくると「パンパンッ!」というアフターファイア音まで付く。

Dレンジで加速していくと、エンジン車と同じように回転数が上昇し音が高まり、スポーツカーのツインラッチのような「トン」というショックと同時にシフトアップする。 フェラーリやマクラーレンなんかに近い変速フィールだ。Dレンジで乗っていると高性能エンジンを積んだスポーツモデルなのかと錯覚するレベル。もちろん変速ショックやエンジン音の無い電気自動車モードも選べる。

Nモードを止めると「普通の電気自動車じゃん」になります。やっぱり静かでツマらないということがハッキリ解って興味深い。 マニュアルモードを選ぶとパドルシフトになる。ここからが一段と「そこまでやる?」。1速のままアクセルを踏み続けるとレブリミッターにあたり、加速しなくなる。60km/hくらいから6速ギアのままアクセルを全開にしても、エンジン車の6速ギアと同じような加速しかしないのだった。

徹底的に遊んじゃってる。テスラやポルシェだってやってなかった。 ヒョンデの凄さはこういった“演出”の裏打ちにWRCのノウハウが詰まっていることにある。アイオニック5Nの開発にあたり様々なドライバーから意見を聞いたという。当然ながら開発の主体は欧州のテストラボであり、ティエリー・ヌービルなどWRCのトップドライバーもかかわっている。日本人ドライバーの意見まで取り入れたそうな。

繰り返しになるけれど、現在販売されている電気自動車の中でブッチギリに面白い! すでに多くの自動車メーカーがアイオニック5Nを購入し「やられた!」と思っていると聞く。走りを楽しむ電気自動車の歴史はここから始まるだろう。電気自動車に乗って「面白くない!」と感じたクルマ好きも「これならいいか」になることを保証しておく。

ここからが本題です。「終わり」と「始まり」のどちらが楽しいか? 私の結論は案外簡単に出ている。クルマにドップリ浸かりたいなら終わり。毎日付き合うとすれば始まりだ。終わりは「人が運転する」という20世紀的クルマ作りの頂点であり、楽しさの裏側に「面倒くさい」や「テクニック」が潜んでいる。そしてそいつは奥行きにもなってる。

始まりは面倒くさくもなく、テクニックだって不要。クルマの楽しさだけをクローズアップさせた。満足感という点からすれば20世紀を知っていると物足りない。でも20世紀を知らなければどうか? 十分に濃い味だと考えます。自ら操らなければ走らないクルマを知らない若い世代にとっちゃ、始まりが全てということ。

もし「休日に乗るクルマを考えている」というのなら、遠からず消えて無くなる20世紀を味わっておくことをすすめたい。GRヤリスのハンドルを握り、3つのペダルと6段のギアを操りながらワインディングロードを走った時のワクワク感は、始まりのクルマには無い。 逆に毎日の移動を楽しみたいという人は始まりのクルマがいいと思う。

Nモードを選ぶと移動を楽しめるし、考え事に集中したい時は個性が消える電気自動車になってくれる。ヒョンデは20世紀に乗り遅れたので始まりのクルマに注力。20世紀のノウハウを山ほど持ってるトヨタが終わりのクルマに注力したと思えば解りやすいんじゃなかろうか。 お金に余裕のある人なら、休日用にGRヤリスを。毎日の相棒にアイオニック5Nを選ぶなんて手もある。

GRヤリスとアイオニック5 Nの写真20枚はコチラで!

2台以上持っている人あるあるで、毎日同じクルマに乗ってしまうけれど、このくらいキャラが違うと迷わない。2台を使い分けられると思う。もちろんGRヤリスでなく、ロードスターやGR86/BRZ、フェアレディZなどでもイイ。 全然関係ない話ながら、新幹線を秒単位でホームに入らせ停止位置を1cmもズラさない運転手が蒸気機関車に乗ったら、マトモに走らせられないと思う。

その逆は比較的短い時間でマスター出来るだろう。しかし! 新幹線の運転手は苦戦しながらも「楽しい!」と感じるんじゃなかろうか。30年後の若いドライバーがGRヤリスに乗ったらどう思うだろう?

<おすすめ記事>

2 Responses to “今や自動車メーカーまで「凄い!」と驚くヒョンデアイオニック5 Nの凄さをジックリ説明してみました”

  1. ひつじぐも より:

    電気関係のエンジニアです。
    ヒョンデの開発現場見てみたいです。
    昔は日本の製品も結構とんでもないものありました。セラとかフィガロとか。
    今は無難なモノしかありませんね。
    擬似音なんてアニメ文化の最たるモノだと思いますが、日本でそれやろうとしても、数字でわかる証拠をだして、各部門で合議してとかで、他のこともやらなきゃならないから、さっさとあきらめるでしょうね。
    こいういうのって権限があるトップに提案して、やるって決まったのかな?
    それとも会議を重ねて要求仕様を決めたのか、興味深いところです。

コメントを残す

このページの先頭へ