トランプ関税で一番大きいダメージを受けるのはどこか? マツダか日産か、それともスバルか?
後篇では、ホンダ、マツダ、スバルの3社を見ていこう。
ホンダはオハイオ州を主要拠点とし、部品を含む総合的な生産体制を築き上げてきたため米国での販売台数に対する現地生産比率は非常に高く、多くの主力車種(シビック、CR-V、アコードなど)が米国やカナダで生産されている。日本から米国への完成車輸出に頼る部分は比較的少なく、これまでの貿易摩擦の影響も限定的だった。15%関税適用も日本からの輸出モデル(一部の高級車や新型EVなど)に限定的な影響で済む。
そんなホンダのアキレス腱がカナダ工場。今回の関税騒ぎまでアメリカとカナダ、メキシコは貿易協定を結んでおり、一定の条件を満たせば関税無しの物流ができていた。そんなことからカナダに工場を作り、乗用車はもちろんエンジンなども生産していた。メキシコは何とか日本並の15%程度関税で決まったものの、カナダに対する関税は8月1日時点で未定。35%の範囲になるという情報もある。
すでにカナダ工場で作ったホンダ車はアメリカ以外の国で販売することを決めている。アメリカで生産していたカナダ向けの車両の生産も止まっている。カナダはトランプ政権の強引な関税決定に対し一歩も引かない構え。ホンダにとって大きな問題になっていることは想像に難くない。ということでホンダの通信簿はカナダ工場を考え“3”にしておく。カナダとの関税率が15%くらいになれば上方修正し“4”。
◆マツダは光明が見えたか?
マツダはアメリカへの輸出比率はスバルと並に極めて高い。大ざっぱに言って日本の防府工場から年間40万台程度(CX-5やCX-70、CX-90)をアメリカに輸出している。トヨタとの合弁によるアラバマに建設した工場でCX-50を生産しているものの、基本的にトヨタと半々。10万台少々の規模に留まっている。ただ関税率が27.5%から15%になったことで真っ暗だったトンネルの先が明るくなってきたかもしれない。
とはいえマツダはアメリカ生産を拡大するという宿題付きだと思う。今回の日米協約の中に「アメリカでの生産を増やす」という約束事項こそないようだけれど、米国の貿易赤字を減らすにはアメリカへの生産移管が最も簡単。「アメリカ車を日本で10万台売る」のと、「日本からの輸出を10万台減らしてアメリカで生産する」簡易度の違いは、業界関係者なら誰にでも分かる。40万台の輸出を半分くらいに減らす方向になるかもしれない。
したがって相当額の投資をしなければならず、同時に国内の過剰設備を減らす必要がある。20万台規模の工場をアメリカに作るとなれば、広島を中心としたマツダの協力企業は20万台規模の仕事を失うことになる。今回の15%関税は収益を直接的に圧迫し、価格競争力にも影響を与えるため、経営上の大きな課題となる。2024年度決算は赤字と予想。地域経済になっても厳しいということでマツダの通信簿は“1”。
◆スバルには余裕がある、しかし……
スバルは米国インディアナ州に「スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ」(SIA)という唯一の海外工場を持ち、フォレスター、アセント、アウトバック、レガシィといった米国市場の主力車種の多くを生産しているものの、日本からの輸出台数は29万台(2024年)。現地生産が36万台なので日本から輸出している台数は45%程度になる。今回の15%関税の影響を少なからず受けることになるだろう。
そもそも24万台規模でスタートしたSIA工場での36万台はほぼ限界。日本からの輸出を半減しようとしたら、もう一つ工場が必要になってくる。日本に電気自動車工場を作る計画を持っているけれど、中止してアメリカでの生産能力拡充を行う可能性も。スバルの場合、マツダと違い財政状況に余裕持つ。アメリカ工場の建設費用も日本に作る予定だった予算を回せば問題無し。投資する場所を変えただけと考えればいい。
ということで成績は“4”ということになる。日本での工場建設に着手する前だったことも結果オーライ。ただ北関東の空洞化は避けられまい。本来なら新工場で日本の雇用は増える方向だったのにキャンセル。しかも29万台の輸出のうち、半分くらいがアメリカ工場に移管されてしまう。部品メーカーを含め失われる雇用規模は極めて大きい。アメリカの関税、最終的に日本の雇用空洞化を招くことを知っておいて頂きたい。
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