松下宏先輩のおすすめ週末ドライブグルメ。南房総の山中にある日本料理店「典膳」

南房総の山中にある日本料理店「典膳」へ。店名は、戦国時代から江戸時代初頭にかけて名を馳せた剣豪・御子神典膳吉明(みこがみてんぜんよしあき)から取ったとのことです。クルマがすれ違えないほどの細い山道を上った先にある店は、いかにも古民家といった風情ですが、20年ほど前の開業時に建てられたものだそうです。

一方で、入り口の門構えなどは100年ほどの歴史があるものを移設したと伺いました。電話予約が必須で、受付時間にも制約があるため、少し前に予約を済ませてから向かいました。東京からだと、かなりの走り甲斐がある立地です。メニューは「地産地消」ならぬ「千産千消(千葉の産品を千葉で消費)」を掲げ、南房総の食材を中心に構成されています。

今回は、多彩な食材を楽しめる「地獄焼きコース」を選びました。なぜ「地獄焼き」なのかと思っていましたが、テーブルの炭火で生きたままのサザエ、アワビ、房州海老(伊勢海老)などを焼くスタイルが、食材にとっての「地獄」のようであることから名付けられたようです。最初に出てきたのは、先付けの嶺岡豆腐と前菜の盛り合わせです。

嶺岡豆腐は、江戸幕府八代将軍・吉宗が嶺岡牧場を視察した際、急に豆腐を所望したことに由来します。大豆もにがりもない中、牛乳を葛粉で固めて作ったところ吉宗が絶賛。以来、日本料理で牛乳を使う際に「嶺岡」の名を冠するようになったと言われています。一般的には黒蜜で食べることが多い嶺岡豆腐ですが、この店では特製出汁醤油で提供されました。

前菜は、聖護院蕪、菜の花、蕗のとう、生わかめの4品。春の訪れを感じさせる盛り合わせでした。次いで、生のサザエ、アワビ、房州海老がコンロの炭火の上に並べられました。「生なので焼かれると動きます。ぜひ動画でどうぞ」と勧められましたが、そのあまりの「残酷」さに、小心者の私はほんの少ししかカメラを回せませんでした。

最初に動きが止まり、食べごろとなったアワビから箸をつけました。火が通ることで適度に柔らかくなった部分と、アワビらしいコリコリとした歯ごたえが共存しており、最高の食感です。次いでサザエですが、あらかじめ細かく切って焼く「壺焼き」とは違い、生きたサザエを丸ごと焼くため非常に大きく、食べ応えがありました。

房州海老は何度も裏返し、両面が真っ赤になったあたりが食べごろです。殻には切れ目が入れてありましたが、それでも硬い殻を外して身を出すのは一苦労。特に頭の部分の味噌を余さず取り出すのには苦戦しましたが、その苦労に見合う濃厚な味わいでした。蓋付きの器で供されたのは、がんもどきの煮物です。添えられた猪の肉団子は、驚くほど柔らかく食べやすいものでした。

猪肉は普通に焼くと硬くなりがちですが、こちらは丁寧な仕事でふっくらと煮込まれており、塩加減も絶妙でした。お造りは初鰹。手前に広がる鮮やかな緑色のソース(写真では黒っぽく見えますが)は、大葉で作られたものだそうです。鰹とツマにたっぷりと絡めていただきました。サラダや焼き物の野菜は、すべて自社農園で作られているとのこと。

サラダは青パパイヤを使い、ドレッシングまで青パパイヤ仕立てという徹底ぶりです。串焼きは、椎茸、ピーマン、ねぎ、イワシの丸干し、水郷鶏、そして里見和豚。コンロの脇に置かれたタレの壺を使い、野菜などは「軽く焼いてはタレを付ける」という作業を繰り返して仕上げます。一方で、水郷鶏と里見和豚については、素材の味を活かすために岩塩を振っていただきました。

さらに、別皿でクジラも提供されました。南房総には捕鯨基地があり、年間26頭のツチクジラが水揚げされるそうです。古くから日本の食文化を支えてきた鯨肉は、高タンパク・低カロリーな食材としても定評があります。ハーフ程度の「半生」で食べるのが一番美味しいとのことでしたので、焼きすぎないよう細心の注意を払っていただきました。

締めは、焼きおにぎりか麦とろご飯、あるいはその両方から選べるとのことでした。今回は麦とろご飯を選択しました。もち麦など3種類の麦をブレンドして炊き上げているそうです。とろろはすり鉢で丁寧にあたられた(すられた)と見えて、驚くほど滑らかな食感でした。これほど見事に仕上げられたとろろには、滅多に出会えるものではありません。

最後のデザートは、底に敷かれた黒糖ゼリーの上に、地元の酪農家が手掛けるアイスクリームと館山産のいちごが添えられていました。アイスはしっかりとした甘さがありましたが、対照的に黒糖ゼリーは甘さ控えめで、バランスよく仕上がっていました。これほど多種多様な房総の食材を堪能できるコースで1万1000円というのは、非常に納得感のある価格です。

今回は飲み物を注文しなかったため、二人で合計2万2000円でした。東京から時間をかけてでも、わざわざ足を運ぶ価値のあるコースでした。

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