中国の最新コロナ事情。日本の自動車メーカーの方のレポートです。等身大の現実が解ります

私ら自動車評論家が案外海外事情に通じているのは、自動車メーカーの海外駐在員からの情報を得ているからに他ならない。私にとって最初の海外取材はアメリカだったけれど、1週間に渡り3メーカーの担当者に話を聞き、政治から経済状況、アメリカ人の生活習慣、嗜好性に至るまで驚くほど奥行きのある情報を得た。内容の濃さと信頼性はメディアの情報をはるかに超える。

ということで、以下、匿名を条件とのリクエストで中国に駐在している自動車メーカーの方のレポートを全文そのまんま紹介したい。最後まで読めば1月2日時点での中国・広州の新型コロナ事情がよ~く解ります。ちなみに違うルートから聞いた上海も同じような感じである。ただ北京は中国の中でも違う雰囲気。少し異なるかもしれませんが、決定的な大きい差は無いと考えます。

1)感染実態はどうなのか?
2)なぜ一気に広がったのか?
3)日本は中国からの感染者だけを特段気を使うべきなのか?

【感染実態はどうなのか?】
結論から書くと「コロナ感染で社会が混乱に陥ってるか」といえば全くそういうことはなく、病欠の人が大量に出て社会経済活動が一時的に影響を受けているというレベルです。一部工場の生産ラインが止まったり、飲食店や販売店が営業できないなどありますが、一時的なのである意味ゼロコロナの局所ロックダウンで起きていたものと大して変わらないレベル、と思えばいいかもしれません。

そして、それはもうすでに大部分の都市ではピークを迎えたか、もしくはここ1〜2週間でピークを超えると言われています。しかも、相当な勢いで感染が進んでいて、それは日本含む諸外国のこれまでのピークとは比べものにならないレベルのようです。実際に私の周りをみても、概ね8割の人がすでに陽性になり、その後、回復して通常生活に戻り始めています。

残っている方たちも何となく症状が出たものの、いつの間にか治った、というようないわゆる無症状感染を経験した方が多いように思います。広州や東芫、仏山、中山の日系企業の多くは社内統計しており、工場のワーカーなども含め先週時点ですでに5〜8割は感染済み(抗原検査陽性)という話をいろんな方から聞きました。在中邦人のみなさんの話でもだいたい同じです。

おそらく、100万人以上の大都市ではどこも似たような状況じゃないかと想像できます。最近、人に会うと最初の挨拶は「你已经阳性了?」=「もう陽性になった?」です。私が普段接する60歳以下の方や、その家族などの話を聞くと、ほぼ軽症で、熱→全身痛→喉痛→咳、痰、人によっては味覚異常までというのが多く、7日以内でほぼ治るようです。

そして、多くは病院にも罹らず、自宅で静養しつつ、風邪や鎮痛薬で対処するというのが一般的です。ちなみに、日本の報道では薬も買えず、病院は人が溢れて外で点滴してるのような映像が観られましたが、すでに薬局や通販でも薬は買えますし、特に在中邦人の中では普段から常備薬を持ち込むのは常識で、今回病院に罹ったという話はごく一部です。

じゃあ、何でああいう映像があるのか?というと、あれはあれで事実で、多くは高齢者の一部の方が重症化して病院の発熱外来にかかっているようです。中国は元々医療機関が脆弱で公立病院は普段から混んでいて、半日待ちなんてのはザラにあるとのこと。私も一度だけ、中国人の友人が一緒に飲んでる時に急に具合が悪くなって公立の救急外来に付き添ったことがあります。

夜の9時くらいでも診察は2〜3時間待ち。そこから何故か点滴でよくわからない薬を3時間投与して、夜中に解放という酷い状況にあったことがあります。しかも、何故か点滴ブースがあって何十人もの人が点滴してました。(何を点滴してるかは不明)。ようは普段からそんな病院がコロナで高齢者が受診したらそりゃ一気にそうなるんだろうなと容易に想像できます。

ただ、私立病院や個人のクリニックは別で、治療費がべらぼうに高いのと引き換えに公立よりはかなりマシな状態のようです。一部のSNSで出てくる「中国のお金持ちはコロナが怖くて国外に逃げ出してコロナ治療する」なんてのは滑稽な話です。人づてに聞くと高齢者の家族が亡くなったというような方も居て、事実、多くの方がこの感染の波の中で亡くなってます。

火葬場が溢れているというのも事実でしょう。それをコロナによる死と定義しないというのは個人的にどうかと思いますが。都市部で蔓延した後、春節を機にこれから農村部に一気に広がっていく可能性が高く、その時にいったい何が起きるのか? まあ、中国の今年の死亡超過はものすごいことになるんでしょうね。

また、中国政府がコロナ感染者の統計を発表していないことでいろいろと言われてますが、抗原検査でやる中でそもそも正しく統計のしようが無いのでしょう。ただ、それが日本や諸外国では無症状や自宅静養者も統計されてるの?というとどうなんでしょうね。よくわかりません。まあ、普段からいろいろ信用されてない人が何言っても信用されないのと同じですかね(笑)。

【なぜ一気に広がったのか?】
ゼロコロナといいながらこれまでも蔓延してたんじゃ無いの? こんな急に広がるなんてありえないでしょ? という意見を目にします。これについても私の意見はNOです。これまでこんな風邪やインフルエンザのような症状が流行ったのは見たことも聞いたこともなく、この半月でほんとに広がったんだと思います。

12/7まではゼロコロナを保持してきた中国では感染者は隔離され、時には中国以外で一般的に思われる「人権無視」レベルのめちゃくちゃなことが一部で行われてきました。そして、私も先日書いたとおり、10月からは連続50日を超えるPCR検査を毎日やりました。この2年半でおそらく150回は受けたんじゃ無いかと思います。その代わり、他国と比べたら早い時期から移動や会食などの自由度がありましたが。

この約3年、特にオミクロン株に変わるまでの2年は多くの中国人民は新型コロナの無い無菌室の中で暮らしてたようなものです。コロナに対しては完全に接する機会のない状況だったため、全くもって免疫がないのだと思います。あとはワクチン。今回、やはり日本人の知り合いで最後までかかっていない人をみると、すでに日本で感染歴がある方か、ファイザーやモデルナのワクチンを2〜3回受けた方がほとんどです。

私を含む中国ワクチンのみの方は知り合いでは若干2名を除き、ほぼ発症してます。しかもフルコースで。まあ、やはり効果を比較すると低いんでしょうね。また、大都市の人口密度も感染拡大のスピードに影響してると思われます。中国の大都市は人口密度がハンパないです。私の住む広州市天河区は224万人が住んでいると言われてますが、人口密度は2.32万人/km2です。隣の越秀区や海珠区も似たような状況で2万人を超えています。

上海も市全体はそうでもないですが、中心部は3万人超え。他の都市も中心部は似たようなもんかも知れません。ちなみに東京は23区内平均で1.5万人、トップの豊島区が2.1万人/km2です。中国の大都市に住む数億人が都内の密集地に住んでいるようなものでしょう。広州でいくと、さらには人口統計に出てこない出稼ぎ労働者が多く住むスラム街のような街があちこちに点在しており、そこではタコ部屋のような生活をしている人たちが何十万人も居ると言われています。

そういった場所での感染拡大は10〜11月の広州のコロナ流行でも一部でコントロールが効かないと話題になっていました。今回、そういう条件が重なり、一気に感染が広がり、そしてあっという間に発症、そして治るというのがこの2〜3週間で起きていることだと思います。

【日本は中国入国者だけを特段気をつけるべきなのか?】
これも答えはNOです。中国の人口が14億いるとはいえ、パスポート保持者は10%以下。そして、海外渡航、特に日本へのビザを持っている人はコロナ直前で年間650万人、複数回の訪日含め、中国人の訪日数は960万人だったようです。では、今現在の状況はどうかというと、中国はコロナ以降一般人への海外渡航ビザの取得は原則認めていません。なのでパスポート更新もビザの更新も出来ない状況です。

よって、日本の観光ビザも最大3年であることからすでにほとんどの方は訪日ビザを持っていません。もちろん、一部の永住許可をもつ在日中国人やその家族、企業で働く就労ビザは発給されていましたが、それらは1割以下のようです。そして、今現在、日本の在中大使館や領事館もコロナと年末年始で休館しています。

これから増えるとはいえ、ようはこの春節に一般の観光客が行きたくてもすぐにビザ発給される状況にはは無いのです。さらに、中国の国際線旅客便はコロナ後に規制され、未だ回復していません。広州からも日本の多くの都市に直行便がありましたが、今は東京の週3便のみ。

中国民用航空局の発表では今年3月までの中国〜日本を結ぶ国際旅客便は週420往復で昨年比で倍増していますが、これはコロナ前の週1万8千便のたったの約4%しかなく、まだ全く回復していません。量でみると、日本の新規感染者に対して、影響があるような感染者が訪れるようなことは考えにくいです。

また、中国はゲノム解析しなくなったから危ない!と言われてますが、これはゲノム情報を遺伝子情報と同様に国外に大量に持ち出されることを統制し、自国で管理しようとしていることが背景にあり、一昨年施行された個人情報保護法(PIPL)に基づいてると言われてます。まあ、いわゆる信用問題として、中国の情報統制の姿勢が批判されるのはこれは当たり前の反応だと思いますが、これは中国に限った話ではなく、アメリカを含むバイオ情報の覇権争いによるもので、ニュースを読む時にはどのスタンスに立った話なのかを見極める必要はあると思います。

ただ、一定の情報は国際機関に対しても出されており、ちょうど先週時点でゲノム解析された結果も出てますが、やはり諸外国で流行ったオミクロン株(BA.5やBQ.1系)が約8割のようです。これは先日話題になったイタリアの陽性率が高かった人らの検査結果でもそう出ています。一方で上海の海外からの入国者では新たな変異株のXBB.1.5が見つかっています。

そして東北地方の一部ではすでに流行り始めたという話も国内報道で出ています。つまり、今現在、変異株に気をつけるなら、中国よりアメリカやシンガポールで起きているXBBの猛威に対して気をつける方がいいんじゃないかと思います。ただし、これまでまったく感染が起きていなかった中国でこの後、さらに変異株が発生することは起こり得ることでしょう。

一度感染した人が再感染する状況になるとそれは加速されるのかもしれません。話をまとめると、日本の報道や一部のSNSで言われてるような医療崩壊で中国社会大混乱のようなことは起きていません。都市部ではすでに感染のピークを迎え、多くのの人が陽性になり、回復しています。さらにほとんどの人がビザを持っていない中で、コロナ前の4%の旅客便しかない状況に、春節に危ない人たちが大量に押し寄せてくるような特段の心配をする必要はないでしょう。

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2 Responses to “中国の最新コロナ事情。日本の自動車メーカーの方のレポートです。等身大の現実が解ります”

  1. アミーゴ5号 より:

    さすがは日本メーカー駐在員の方のレポートだと、唸りました。

    中国コロナ事情の知りたい情報が、確からしさを含めて網羅されています。久しぶりに「本物の生情報」を読みました。

    ちなみにマスコミも、昔はこういうレベルだったと感じるのは、自分だけでしょうか。。。

    忖度無しで事実を伝えることの素晴らしさを、あらためて実感しております。

  2. CX-60 より:

    いつも、このような一次情報をありがとうございます。
    中国も、一定の管理は出来ていたものの、withコロナに舵を切ったということですね。
    広州モーターショーを前倒しして、ヤル気まんまんなんでしょうね。
    bz3、トヨタとBYD のコラボは気になりますな

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