日本の実力発揮できず

上海ショー会場で日本の自動車メーカー社長の取材会(質問に対し社長が回答するという形式)に参加したり、いわゆる「ぶら下がり」と称す金魚の何たらみたいな突撃取材をいくつか見てきた。驚いたことに大手メディアの記者さん達が知りたいのは、地震の被害による生産減少について”だけ”のようだ。

というか、それしか質問しない。中国のショーなのにアメリカやヨーロッパの工場稼働状況まで聞く。中国市場の状況とか、日本車の課題などの質問は見事に無し。自動車メーカーにとって悪いニュースを書きたいんだと思う。実際、大手メディアが伝える昨日からの自動車関係のニュースを見ると減産減産また減産。

自動車メーカーはメディア対応を一元化し始めたのだろう。今まで自動車誌関係と一般メディアを分けて対応していたのに、最近一緒になる機会多い。その度に感
じるのだけれど、関心を示す対象や事象が全く違うのだった。一般メディアの記者さん達を見てると直近の出来事(しかも悪い事象)にしか関心示さず。

記者さん達も異動が多いため、長い目でクルマを見ても意味無いということなんだと思う。「2年後の中国市場」などは自分の担当じゃない、ということです。知識が少ないので間違った記事多い。とっくに日本で発表したフィットの電気自動車が上海ショーでワールドプレミアになった、と書いている新聞まであったほど。

今回上海で「日本の優位点はあるな」と感じることも多かった。VWの発表会場にジャッキー・イクスが居た。クルマの歴史の長い日本人であれば、瞬時に歩いて乗り込み優勝したル・マン24を思い出し、バタネンに疑惑の優勝を譲ったパリダカの話を聞きたくなる。そういった文化が自動車を作ってきた。

「現在と明日」(せいぜい半年後?)が最重要な中国人からすればどうでもいいことだろう。過去を考えない人は将来にも興味ない。日本の一般メディアの記者さん達と中国人メディアは似ているな、と感じました。何でも書けるような気になっているけれど、肝心なことは上で潰されてしまうというのも共通してます。

取材会の際、珍しく「GMは400万台という中国の販売目標を設定しているが御社はどうか?」という質問が出た。その記者さんは日本のメーカーとGMのビジネススタイルの歴史を知らないらしい。GMは五菱汽車に代表される中国企業をドンドン買収し、販売台数を増やしていく。日本の企業は伝統的にそれを好まず。

したがって日本のメーカーとGMの販売目標を質問することに意味がない。でもそれをそのまま記事にすると「GM凄い!」になってしま
う。長い歴史を見ると、拡大を是とするGMのビジネススタイルこそ優れている、ということもない。実際、ここにきて中国の民族系メーカー(BYDなど中国独自資本)の勢いはイマイチである。

中国のユーザーが「クルマのカッコをしていれば何でも良い」ということではないことを知りつつあるからだ。安くても壊れたり質感が悪ければダメ、ということを学習してきたワケ。普通の人なら人生で2番目に高い買い物であるクルマを作ったり評価したり、報道
したりするには歴史や知識が必要。

様々な経験を積んできた日本の自動車メーカーの潜在能力は素晴らしく高いと考える。ただそいつを引き出せないでいる。足を引っ張っているのは政治家や役所的な思考回路(事なかれ主義)を持つ社員と、悪いニュースばかり好む一般メディアが強いからだと中国を見て再認識させられました。

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4 Responses to “日本の実力発揮できず”

  1. kanbutan より:

      御大はいつも視点が素晴らしく且つ又、先が良く見えてますね。 評論を生業とする人の見本、お手本だと思います。 諸新聞の記者の方々は言わば新聞という出来合いの物を造って行く過程に於けるラインワーカーの様な存在なのだと思います。 でも、自動車会社のラインワーカーはやはりクルマ好きでしたよ。 今はどうか判りませんが。 60年代の終り〜70年代初頭に在籍していた HONDA の狭山工場は皆、好き者ばかりでした。 駐車場を見れば判る訳です。 まだ若かった私は資金も無く西武新宿線を愛用してましたが。
      好きこそ者の上手なれとは昔から言われて来ましたが記者の皆さんにはその道を目指した原点に帰ってほしいですね。
      ジャッキー・イクスを見掛ければクルマの好き者であれば御大と同じ様な気持になるでしょう。 自然です。 当然です。 御大の評論に期待しております。 森羅万象とは申しません。 自動車(のみに有らず)評論家としての見識に期待しておりますという事です。

  2. アミーゴ5号 より:

    レポートを読んだら、「はぁ〜」って感じで脱力しました。
    (ノ-_-)ノ
    一発芸じゃないけど、記事はインパクトがあってわかりやすくなければ駄目なんでしょうね。
    ネットの影響もあるのかな?
    もっとも自動車評論家にも、新型車をヨイショするために従来型や他車をコケにする、近視眼的かつ表層的な人もいますからねぇ〜。
    (クルマ好きとしては最も許しがたいタイプ)
    一個のマスコミの記事より、5人のクチコミや呟きの方が的を得ている様に感じる今日この頃です。

  3. 小林 英弘 より:

    マスコミ屋さんにとっては「記事」が唯一の「商品」ですから、いかに「商品価値」の高い記事を仕入れるかに必死なんでしょう。世の中が暗い空気に包まれてる今は「悪い」ニュースが「売れる」「商品価値の高い」商品、という事なのでしょうね。まぁ現地でインタビューしてる記者さんは言ってみれば下っ端の「仕入れ担当のバイヤーさん」な立場の人達なのでしょうから、暖かい目で見てあげましょう(笑)。

  4. 阪神ファン より:

    >悪いニュースを好むメディア。
    ほんと、そう思います。
    以前にトヨタやマツダの社長がマスコミに対して怒っていたのを思い出します。
    専門誌ではないとはいえ、その分野の担当になったのであれば勉強してほしいですね。仕事するうえでの基本がなってないと思います。
    私は国沢さんのHPとベストカーで勉強させてもらっています。
    日本車の底力を見せ付けてほしいです。

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