松下宏の食べ歩き/わざわざ出向くだけの価値が十二分にある栃木市のうなぎ店「せしも」
現役時代の同業者である岡島さんを誘って(運転してもらって)栃木市のうなぎ店「せしも」へ。少し前に栃木で一番の店として青木英夫先輩が訪問され、とても良かったとのことだったので、われわれも行くことにしました。事前にグーグルマップで場所を調べたら、何もない田舎に立地している様子です。
実際に行っても田んぼの中にぽつんという感じながら、店の構えはなかなか立派です。完全予約制とのことだったので先週のうちに予約しておきました。うなぎはていねいな養殖で定評のある共水うなぎで、昼のメニューは小が丼で6600円、並が重箱で7700円、特大も重箱で8800円です。
特大は日によっては入らない日もあるとのことでしたが、注文して出向いたらありました。電話の段階では、肝焼きなどは夜のコースにはあるが昼は提供していないとのことだったので、鰻重だけを食べることになるのかなと思っていたら、昼もしっかりコースのような構成になっていました。
予約してあるのでうなぎを割いて串を打つところまでは準備してあるようでした。蒸して焼いては客が店に着いてから始めるため、多少の待ち時間が発生します。その間にいくつかの料理が提供されます。最初は骨煎餅で、うなぎの骨の素揚げをぽりぽりとかじります。次いで前菜として稚鮎の佃煮、つぶ貝、牡蠣の佃煮の3種盛りが提供されました。
佃煮はやや塩気が強めですが、佃煮なので仕方ありません。さらに夏野菜の煮しめが出てきました。ししとう、茄子、蕪、椎茸などが煮込まれていて、こちらは適度な塩加減の薄味で良い具合でした。
メインの鰻重はそれはそれは見事なものでした。蓋を取ると、重箱の端に少し白いご飯が見えるものの、重箱の大半を覆いつくす大きなうなぎで、しかも全く焦げ目のない見事な焼き加減です。これほど素晴らしいうなぎには滅多にお目にかかることができません。この段階で栃木一はもちろんのこと関東でも一、二を争う店ではないかと思いました。
関東風に蒸しはやや強めで、特大で肉厚の共水うなぎがふっくらと柔らかく仕上がっています。箸で簡単に切り分けられ、口に運ぶと共水うなぎならではのおいしさが広がり、同時に意外なくらいに薄味のタレが私にはとても良い具合でした。最初の半分くらいまではそのままで食べ、後半は山椒を振り、最後はテーブルに置かれていた追いダレを少しかけて食べました。
いやぁ、久々に大々満足のうなぎでした。お新香はいろいろな種類が盛られていて、薄味の浅漬けでした。お椀は吸い物ではなく味噌汁でなめこや白きくらげ、たっぷりのネギが入っています。鰻重のときには肝吸いのほうが良いと思いますが、この味噌汁もなかなかのものでした。
そして最後のデザートはパイナップル、グレープフルーツ、抹茶の3種類のシャーベットにシャインマスカットが添えられていました。うなぎ以外の料理ものもしっかりおいしく食べさせる店でした。これで8800円(二人分で1万7600円)でしたが、東京からわざわざ食べに行く価値が十分にある店でした。
栃木方面に出掛ける機会があるなら、ぜひ立ち寄りたい店です。会計時に東京から来たという話をしたら、女将さんはそれに感激したのかクルマが出発するのを店の前でしっかり見送ってくれた上、クルマが数百メートル走って完全に見えなくなるまで手を振り続けておられました。こちらも感激してまた食べに行かなくてはと思った次第です。
食事の後は、群馬・栃木・埼玉の三県境がそう遠くない場所にあるので、そこに立ち寄ることにしました。群馬県出身の私もまだ行ったことのない場所です。三県の県境が接する場所は国内にたくさんありますが、たいていは山の中で歩いては行けないような場所ばかりです。平地にあるのはとても珍しいのです。
まあ行ってみると、田んぼと水路があるだけで、何の変哲もない感じでしたが、行かないことにはそんな感想も語れません。木箱の中に用意されていた記念スタンプを押して持ち帰りました。
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とても美味しそうですね。
ただ、お値段が高いのか安いのか、判断できない自分が悲しい。