ラリーあれこれ

<マリーニ選手のアクシデント>

「こうなれば残る二つのSSを思い切り楽しむのみ!」とスタートしたSS14は間違いなく大幅にタイムアップしただろうな、と思えるくらい良い感じ。ところが、である。ゴールから300mのコーナーでマリーニ選手のコ・ドラが手で懸命にバッテンマーク。重大事故だと直感。速度落とすと、ランエボがコースオフしてる。

それだけじゃなく、半ズボンの人が血を出して倒れてます。こういったケース、止まかどうかは競技者次第。もし主催者がSSをキャンセルにするなどの救済策を講じてくれなければ、止まっている時間だけSSのタイムが遅くなってしまう。競技を諦めなくちゃならない、ということです。

けれど私らは0,1秒も迷わず。急いで飛び出し(木原さんに止まったと思ったらもう居なかった、と言われました。ロールケージの隙間、狭いんだけど)、状況をチェック。マリーニ選手が泣きながら「救急車を呼んでいないから手配して欲しい」というので、再び乗り込んでゴールへ。

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スンゴク気の良いイタリアン

オフシャルに重大なアクシデントの発生伝え、救急車を要請。SS13のゴールに次々とラリーカーが入ってくるも(止まってサポートしたチームは私ら以外無かったらしい)、本部からして混乱しているらしく、指示でない。私も木原さんも、「こうなったらラリーどころじゃない。SS15は当然キャンセルだろう」という認識。

後続のグリーンジイサンのコ・ドラは(ペッダーさんという40歳代の女性。63歳のジイサンとの関係はアジアのラリー界のナゾの一つ)、一段と強硬な姿勢。私たちのトコロにも来て「もうラリーは終わりにしなければならない。クニサワは走らないワよね!」 私も木原さんも「当然でしょう」。

ペッダーさんは全員でSS15に行かなければ、この時点でラリーが終わると考えている。私が先頭です。ジイさんの後ろから来たアメリカ人のアンドリュー(コ・ドラは今シーズンの私の相棒であるイテポン君)は「みんなに従うよ」。ペッダーさんがイテポン君に「タイ語でオフィシャルに中止するよう言って頂戴」。

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上位チームのクルーでタイ語が出来るの、イテポン君だけ。すると「とりあえずSS15のスタートに行って指示を待つように言われた」。ペッダーさんはじぇんじぇん収まらぬ。すぐラリーを止め、SS14からサービスに戻るべきだ、と強硬に主張。イテポン君と口論になった。どうなる?

するとジイサンが突如「おいペッダー、行くぞ!」とエンジン掛け、ペッダーさんも乗り込んで走り出してしまった。ペッダーさん、サービスに戻ったのか? 残った私ら、みんなと協議し、とりあえずSS15のスタート地点まで行くことに。するとどうよ! ジイサンのラリーカーが来ている。

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アクシデント以後、二人は全く目を合わせなくなった

ジイサンはラリーを続ける気、満々なのだ。言うまでもなくペッダーさんと大ゲンカ状態。価値観の違いというヤツですな。結局SS15はステージキャンセルになり、サービスに戻ることになったのだけれど、ペッダーさんは収まらない。「私のラリーカーに乗っていく?」とリアドア開けたら、ホンキで乗ろうとした。

ハネられた人は? マーシャルにコースへの立ち入りを止められた地元のわがままで知られる有力者が、ゴルフカートで脇道からコースに入り、スタックしたところにマリーニ選手が来たのだという。病院に運ばれ右足の骨折だと判明。ここの病院じゃイヤだと転院したそうな。こらもうどうしようもありません。

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マリーニの泣き顔が忘れられない。出走順が1つ違えば‥‥

ラリー終わった夜、マリーニ選手とコ・ドラが来て「クニサワ、ありがとう。止まってくれたのはキミ達だけだった。とても心強かった」。大ショックだと思うけど、ラリーは止めないでね。そうそう。停車して飛び出した際、インカムを抜くことを忘れてしまい、コードがブチ切れる。高いのに。しくしく。今回のラリー唯一のダメージでした。

<ダム湖畔の遅さ>

今回ダム湖畔のSSが遅かった原因は最後のサービスで判明した。やはりエンジンパワーのためでございます。最後のサービスで中回転域のブースト圧を上げるという、モーテックの(コンピュター)ソフトを変えないで出来る唯一の対応策を打ったら、タイムがイッキに8秒も縮まりましたから。

参考までに走りの動画をご覧頂きたく。少しでもコーナリングスピードを稼ぐべく、走っているラインがウィッタヤ選手より完全に1台分イン側。このライン取りでキロあたり0,5秒速くなりました。前が見えないくらい深いブッシュに飛び込むコーナーも何度かあった(何か硬いモンがあったらオシマイでんがな)。

SSベストを取ったウィッタヤ選手

マリーニ選手の走行ラインを見ても、コースを知り抜いているウィッタヤ選手と同じで、無理したイン攻めをしていない。いや、しないでもタイム出る。当然ながら下の動画のライン取りをしてる私の方がコーナリングスピードは早いので、本来なら最高速だって出るハズ。ところがどっこい!

20秒も遅かったワタシ。速いしアクセル踏んでるでしょ?

ランエボのウィッタヤさんに最高速を聞いてみたら170km/hだって。私のデータを見たら、同じSSの1回目は148km/h。2回目147km/hでほぼ同じ。じぇ〜んじぇん遅いぢゃありまへんか! おハナシにならぬ! しかしブースト圧を上げたらイッキに161km/hへ上がっている。

「どうして最初からこの設定にしてくれなかったのか」と小沢さんに言ったら「だって国沢さんのエンジン、いじってないんでしょ?」。やはりノーマルのままだと厳しいそうな。モーテックのセッティングも、普通のエンジンで壊れない程度にしてます。今回は安全マージンを切り崩したワケ。

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最後のサービスで覚悟決める

標準スペックのエンジンでブースト圧を上げるのはリスキーらしい。「最初から上げたら持たなかったと思いますよ。アジパシだと2戦に1回オーバーホールします」。考えてみればウィッタヤ選手もマリーニ選手もジイサンも、そして後続のアンドリュー選手も、エンジン音からして気合い入ってる。ミッションは全員ドグだし。

小沢さん曰く「そろそろチャンとしたラリーカーに乗るべきです」。まぁ国沢選手も修行を重ね、ステップアップ出来る段階に来たということか? エンジンをキッチリ組み、モーテックでギリギリまでパワー出してやれば、マリーニ選手やウィッタヤ選手と勝負できると思う。劣勢パワーで勝ったSS1とSS4を見れば解る。

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クールな木原さんが壊れる、の図

いずれにしろショックアブソーバーのスペアさえ持っていない状況でシリーズ優勝できたのは幸運に恵まれたからに他ならぬ。けっこう気合い入れて参戦したマリーニ選手ですらシリーズ3位。地の利とはそんなモノ。全日本ラリーにPCWRCのトップドライバーが参戦したって、シリーズ優勝は絶対無理だと思う。

だからこそタイラリー選手権25年間の歴史の中で、外国人チャンピオンは2人目なのだ。タイのラリー関係者によれば「クニサワはタイ人が敬愛する王様のことを案じてくれた。ステッカーを見たときは驚いたよ。それにタイ人のクルーも大切にしてくれた。だから神様も助けてくれたんだと思う」。

最後は読者の皆さんも背中を押してくれた。いろんな意味で幸せなシーズンでありました。国沢光宏、果報者でございます。

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<木原さんからのメール>

今回は家族ともども大変お世話になりました。家族みんな非常に思いで深いラリーとなりました。2008年のラリージャパンの時と同じく、今回もとてもいいチームでした。それも国沢さんとラリーをする魅力のひとつだと思っています。

また、国沢さんのホームページを見て多くの方がチャンピオンになったことをお祝いしてくれるのを見るにつけ、国沢さんの活動の影響の大きさを実感しています。少しでもその活動のお手伝いに参加出来たことは、とても有難いことだと感じています。
 
ラリーの間は、高速コースにシビれはしたものの、ドライビングが常に安定していたので怖さはありませんでした。また、国沢さんが楽しんで走ったSSも、納得いかないSSも大体ワタシのおケツで感じていました。
 
SS14の最初の方の右に回り込んだコーナー、前2台のラインを綺麗にトレースして入口から流してしかもアクセルは踏み続け、リアにトラクションがかかった状態で美しくコーナリングしましたね! ワタシは心の中で「サイコーに決まったー!」思っていました。

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<データ>

        ウィッタヤ   マリーニ    国沢      国沢最高速

SS10    6:39     6:42     6;59     148km/h

SS11    9;29     9:26     9:50

SS12    6:38     6:35     6:50     147km/h

サービスイン

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SS13    9:27     9:28     9:42

SS14                              161km/h

SS10とSS12、SS14は同じコース。SS11とSS13が同じ。SS12は徹底的にインを攻めたら9秒も早くなった。SS13からパワーアップしてるため、SS14はSS12より最高速が大幅に上がってる。もしかしたらトップタイムだったかもしんね〜ぞ! な〜んて思っていたりして。いずれにしろ最後まで攻めました。

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6 Responses to “ラリーあれこれ”

  1. モト仙人 より:

    同感感動であります。
    人命は遊びより重いのであります。

  2. 出たとこ勝負 より:

    遅くなりましたが、シリーズチャンピオンおめでとうございます。
    マリーニ選手のアクシデントの際の各ドライバーの対応は、
    昔のF1レース中の火災シーンを思い出しますね。
    ドライバーは誰だったかは忘れましたが。
    もし私が、同じ場面に遭遇した時には、
    師匠と同じ行動を取れる人間でありたいと思います。

  3. jiji1942 より:

    アクシデント時の処理が淡々と綴られていますが当事者は欲がからんでいるためレースを中断しての対応はどのレースに関わらずなかなか出来ない事だと思いますよく止まって対応してくれました。日本人の誇りです。
    遅ればせながらスタッフの皆さんお疲れ様でした。

  4. buchi より:

    おめでとうございます。
    流石!江戸っ子ですな。
    それでこそです。
    とても気持ちよくなりました。

  5. Kei より:

    似たような経験があります。10年以上前ですが、某ジムカーナシリーズを追っていたとき、とある幅の狭いコースの最高速が出る場所にあまり速度が低下しない右左シケインが設置され、しかもそれは2速で回る左コーナーの直前でした。
    案の定、左への揺り返しでコースアウトし転倒、ドライバーが軽症を追うという事故が発生。完熟歩行の時点で自分を含め数人のドライバーがそのシケインの危険性を指摘し、左右シケインへの変更を要求していたのですが、競技はそのまま行われ、事故車は全損でした。そのため、自分を含め3名が競技中止を訴えましたがその後も続行され、結局、その三名は出走拒否しました(自分はその時点でチャンピオンシップリーダーでした)。
    なので、事故発見時の国沢さんのお気持ち、よく分かるつもりです。特に公道を利用するラリーではこういう面での安全性が問われますね。罪の無い参加者側に怪我が無かったのがなによりです・・・。

  6. Kei より:

    長くなったので連続投稿になります。せっかくチャンピオンになったのですし、メディアで草の根スポンサーを募集されてはいかがでしょうか?例えばベストカーでここ数年のさらに詳細なラリーの回想録のようなものを連載し、来年も一緒に夢を追ってみる仲間を募集してみてはいかがでしょうか?
    それと、署名運動をして国沢さんに来年スバル等のメーカーからフル補強の競技車両を提供してもらえるようにお願い出来れば・・・。読者ならではの援助の仕方は他にもいろいろあると思います。公にアイディアやスポンサーを募集されては如何でしょうか?国沢さんの来年の活動へ少しでも助けになればと思っています。

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