車屋四六の四方山話/シトロエン、トラクション アヴァン(FF)の元祖。弱点は?

1955年、フランス映画{現ナマに手を出すな}が日本で公開された。名優ジャンギャバンが走るシトロエンが格好良かった。主題曲♪グリスビーのブルース♪を奏でるハーモニカの哀愁を帯びた音色が今でも忘れられない。

1953年型11CVとジャンギャバン

このシトロエン11CVは、私にとっても想いで深い。親友鍋島俊隆=通称ナベチンが1953年型を二台持っていたので、借りて乗ったからだ。写真は軽井沢からの帰り道で倉賀野あたりだろう。ヒロッペが愛称の鍋島夫人との比較で判る極低の車高、広いトレッドと当時珍しい前輪駆動というコンビが斬新だった。当時シトロエンは、東京芝西久保巴町の寺山自動車が輸入元だった。

1953年型11CVとヒロッペ

53年型11CVレジェールは、斬新なOHVで直列四気筒・1911cc・圧縮比6.5・56馬力/4250回転・3MT。11CVは、53年頃でも目立つ姿だったが、ほとんど同じ姿で登場したのが1934年だった。アンドレ・シトロエンは「車は押すより曳くほうが自然で合理的」との理論で、トラクションアバン=前輪駆動を開発したのだ。

シトロエンの広告/第二次世界大戦前のドイツ

11CVは、53年当時でも変わり種だったが、34年のころだともっと変わり種だった。が、走れば実用的で高い実力の持ち主と認められて、優れた操安性が買われ警察用に、また追われるギャング達も乗っていた。評判よく英国でも生産された。

ナベチンの11CVは、全長4440x全幅1620㎜・車重1174kg。蛙が這いつくばったような姿で低い車高だが、FFでプロペラシャフトがない床のキャビンは思いのほか広く、インパネ中央からニューッと突きだしたシフトレバーを操り、スポーティーに走ることができた。

1939年型/パリのシトロエン収蔵庫で撮影

が、パワーON状態のコーナーではハンドルが重く、早すぎるとアッという間にテイルを振りだす。慌ててアクセルOFFすればタックイン。乱暴に乗ればジャジャ馬のような車だった。

初めて借りて乗る時ナベチンは「駆動の変わり目にクラッチを踏め」と念を押された。アクセルONで走行中、アクセルOFF直前にクラッチを切れという。当時FFの泣きどころの、前輪クロスジョイントの寿命を延ばすため、ジョイントにかかる力が反転する一瞬の遊びで生じる衝撃を避けるため、ギアシフトの度にクラッチを踏んでいた。

初期の頃のインパネ周り/前から突きだしたシフトレバーは3MT

それでもナベチンは、解体業者の街・本所竪川町に行ってはジョイントを買いあさっていた。ラーメン一杯40円の頃、一個500円ほどだったと思う。

FF用前輪のクロスジョイントは、スバル1000開発時に新型ジョントが完成するまで、FF車の泣きどころだった。その後世界中にFF時代が来るが、スバルは、この世界的発明で稼げなかった。開発時指導的立場で来日していた英国人が、完成の目処が立つと同時に帰国して特許出願したのだ。世界最高の戦闘機を造った技術屋も、会社も、当時はボンヤリおおらかだった。

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One Response to “車屋四六の四方山話/シトロエン、トラクション アヴァン(FF)の元祖。弱点は?”

  1. z151 サンバー愛好者 より:

    ノストラダムスの大予言とかミレニアムとかで世の中が色々揺れ動いている時、「最も偉大な20世紀のクルマ」という発表がありました。
    当時の感覚では「カーオブザイヤーの親分みたいな?」でしたが、候補に挙がったクルマの数は700台以上、世界中のモータージャーナリストや専門誌や機関が4年の歳月をかけてアウトプットしたものということで、その3位がシトロエントラクシオンアヴァンだったのを覚えています。
    第1位はT型フォード、2位がミニと有名どころで、ポルシェ911より順位が上なのかと当時意外に思ったのが印象に残っています。
    当時の私が抱いていたシトロエンのイメージって「クセツヨ」であり、1本スポークのハンドルだったり、ハイドロニューマチックサスペンションだったりと、アヴァンギャルドというよりはエキセントリックでした。
    ただそれ以前の時代、特に戦前辺りではシトロエンのエンブレムの元となっているベベルギア(デフを構成するギアの一つで高い工作精度が要求されます)だったり、当初実現することさえ難しかったFFを徹底して創業当初から作り続けたりと「未来を先取りする」意味でエキセントリックな自動車メーカーと考えを改めました。
    WRCでローブやオジェのような伝説的なチャンピオンを輩出したシトロエンがヘンテコな訳ないですが。

    FFのドライブシャフトって確かに難しいですね。
    四駆のラジコン前側を組み立てる時もこの辺気を使います。
    標準仕様だと正に「クロスジョイント(クロスカップリング)」」
    薄い板金のパイプに十字の切り込みが掘られていて、ハブ側は四葉のタケコプター状シャフトではめ込むだけ。
    サスペンションのジオメトリーで固められているので理論上外れないのですが、実際はハードなジャンプや砂利道のような不規則な入力で外れるかパイプ側が変形します。
    遊ぶくらいならいいのですが、レースではここをカルダンシャフト(カルダンジョイント)、もっといえばダブルカルダンシャフトにしないと完走・入賞できません。
    別名フックスジョイントともいわれるので、スバルに開発させて特許取得した英国人ってこのフックス氏なのかもしれませんね。

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