あたごの事故
物事の評価はその人の経歴や経験、性格などによって大きく変わる。近所の松本さんって私と全くタイプが違い、話をしてると勉強になります。ということで昨日の自衛艦『あたご』と漁船の衝突事故の分析など。今回ブリッジで行われている入念なウォッチと、民間船に対する気配りを見て「なぜ衝突したのか?」と疑問が深まった。
なのに松本さんはアッサリ「これならブツかる可能性がありますね」。とりま状況など。接近してくる他のフネを認識するや、片っ端からレーダー手が「標的」としていく。フネの「発見」は専属のレーダー手の他、ブリッジ左右の張り出した部分に一人づつ。ブリッジ内でも常時2〜3人が双眼鏡を併用して見張りをしてる。
まぁ接近してくるフネを見逃すワケ無し。ここまでは私も予想できていた。ちなみに「標的」に設定すると、レーダーに「アルファ標的」「ベータ標的」「チャーリー標的」「デルタ標的」と発見順にトラックボールを使って入力していく。私のフネも近寄っていくと標的として設定されている、ということだ。
入力されたら全員で脅威度確認をしていく。レーダー手は1〜3分毎に標的までの距離と標的の移動速度をコール。これを全員でコールバックし、実際に確認を行う。やがてスレ違うなど自艦の脅威として存在しなくなれば「ベータ標的消去!」とレーダー手がコール。これまた全員で復唱し、新たな標的探しが始まる。
こうなるとブツかりようがない。いつもと同じだろう自衛隊の手順を見ていると「相手に避けさせる」という強引さも無し。ここで松本さんが指摘する。「標的として消去されたら誰もそのフネを見なくなりますね」。確かに! すれ違う前に消去された標的は完全に監視から除外されている。誰も注意しない。
「あたご」と衝突した漁船の進路を見ると、どうやら一旦迷ったようだ。「あたご」の後ろを通ろうとしたのかもしれない。この回避行動で「あたご」のレーダー手が「ベータ目標消去!」と判断したら、以後、誰も注意しなくなってしまう、と松本さんは指摘する。その通りかもしれない、と「しらね」のブリッジで思った。
ちなみに「あたご」は、3隻グループだった先頭の漁船に進路を譲るべく減速している。これを見て衝突した漁船は減速した「あたご」の前を通ろうと思ったのか、右に舵を切っている(これらのデータは公表されてます)。「あたご」側が消去した目標を忘れていれば、突如目の前に出てくる。衝突する可能性大。
松本さんの読みは妥当だと私は思った。されど海難審判の内容を見ると、この手の指摘は全く無し。事故が起きたときの原因究明のためにも自衛艦にもボイスレコーダーを付けたらいいんじゃないかな、と思った次第。そしたら脅威目標の消去のタイミングを遅くするなど(離れ始めたときに消去)、対応策を取ったと思う。
残念ながら漁船衝突事故の教訓は活かされていないと感じました。もっと言えば海の上で自分の安全を守れるのは自分だけ。人為的なミスをゼロにすることなど不可能。どこに責任あっても、死んでしまったら同じだ。
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見張りにも”遊軍”が必要なのかも?、2人くらいメインの監視とは違う視点で見る人間も必要なのではないでしょうか?。
目標消去!かあ。
そりゃ、事故にもなろうかと。
ご指摘のように、ボイスレコーダーやカメラを設置してもいいですよね。
立派に、研修の役目を果たすと思います!
私は、元海上自衛官でして、当時(20年以上前ですが)、右ウイング(ブリッジの右の張り出し)に配置につく、「一番見張り」をやっていたことがあります。
当時の「常識」からすると、艦正横を越さない(艦の真横より前にいる)「目標」を「消去」するなど考えられない事でした。
しかも、漁船は動きが読み辛く、唐突な挙動をしめすので、特に入念に見張っていたのですが。
また、三番見張りが艦尾に配置についていて、艦正横より後ろの目標を主に担当していて、目標が進路変更して同航となり、更に増速して艦の前方に出そうになると、都度警告を発しておりましたので、結局のところ前であろうと後ろであろうと、艦周辺の水上目標を、意識から消去するなど、考えもしていませんでした。
そんな私の(古臭い?)「常識」からすると、衝突コースに入っている、(ある意味護衛艦にとって最も危険な存在である)漁船を見落とした(から衝突してしまった)など、有り得ないことでありまして、それでも起こってしまったとなりますと、艦橋が自衛艦の中でもとりわけ高い位置にあるあたごの場合、(水上見張りは自分の視線を水平線に合わせて、それを一つの基準としていましたので)見張員が無意識のうちに、間近の目標を見落としてしまったのではないかと。そのくらいしか思いつきませんでした。
それにしても、最近は周辺の艦船(てゆうか船舶)を、「標的」と呼称するんですか。私の頃は、確か「目標」でした。
いろいろ変わっているんですね〜。(当たり前か!)
古い知識って、役に立たないのかな〜。シーマンシップは、普遍的だと思っているんですが。
あたご事故のマスコミ報道には、犯人探しばかりで、操船に関わる人の営みが全く感じられませんでした。
ドシロウトながら、仕組みと判断基準の狭間でおきたという今回の解釈が、真実だと実感しました。